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04-03




(―――…そう、今度こそ空を守ると決めていたのに、まさか玲にあんなことを言われるなんて思ってもみなかったな)

 
 
とある日、英会話から帰宅した鈴理は夕飯を取らず、愛犬のアレックスの下で一戯れ。
 
その後、シャワーを浴びて寝巻きに着替えると、携帯を片手にお気に入りの水辺のテラスへ。

縁に腰掛け、携帯を弄りながら素足でちゃぷちゃぷと水面に触れた。

気持ちがささくれ立った時はいつも此処に来るようにしている。
澄んだ水と静かに広がる波紋が自分を慰めてくれるから。


大きな溜息をつき、携帯を閉じてちゃぷちゃぷと水で遊んでいると「お嬢様」声を掛けられる。
 
顔を上げれば教育係のお松が背後になっていた。
 
第二の母とも言えるお松は、夕飯を取っていないと知ったのか、ちゃんと食事はするようにとお小言を頂戴してしまう。

食べたくないとそっぽを向けば、「駄目です」ちゃんとお食べになって下さいと隣に腰をおろしてきた。

 
ぶうっと脹れる鈴理に、「我が儘ばかり言ってると」空さまに言いつけますよ、と脅してくる。

それは困った。
彼の耳に入れば、口喧しく「食べ物の有り難味を知りなさいっす!」と言われることだろう。


ちゃぷちゃぷ、ばちゃばちゃ、水面を蹴る。

波紋が二重三重四重に広がり、向こうの花壇縁にまで届いた。

花壇で眠っている花々は気持ち良さそうに首を垂らしている。


「どうしましたか。最近のお嬢様は、物思いに耽っていることが多いですよ」
 

問い掛けられ、鈴理は何でもないと答えを返す。
 
だったらちゃんと食事は取るでしょう、しつこいお松の追究に鈴理は唇を尖らせた。

今しばらくダンマリとお松の鋭い眼光を受け止めていたが、不意に、「空は」どうしてあたしと付き合っていると思う? 第二の母に尋ねた。


キョトン顔を作るお松だったが、すぐに頬を崩して返答。


「お嬢様を好いているからでございますよ」


嬉しい答えにも、気持ちは晴れない。

  
「あたしは空に許婚のことを黙っていた。黙秘したままアタックもして、付き合う口実を手に入れて、正式に付き合うことになったのだが…、あたしは許婚がいたままだ。この状況、空には心苦しいものなのだろうか」

「大雅さまとの関係でお悩みなのでございますか?」



首肯。
 
鈴理は許婚の存在が彼を苦しめていると指摘された先日のことを思い出し、どんより曇り顔を作る。
 

『鈴理、豊福が許婚の存在を気にしていないと思っているのかい? まさか、彼が気にしてないとでも本気で思っているのかい?』
  

当事者同士は許婚というより、好(よ)き悪友で接しているつもりなのだが、表面上でも“許婚”という関係は彼自身にとって重荷になっているのだろうか。
 
許婚とも仲良くしている彼自身からはそんな素振り、一抹も垣間見えなかったのだが…、自分の知らないところで悩んでいたり、不安を抱いていたりしているのだろうか。

なによりも、好敵手がその一面を知っている。

悔しい一方で、自信を喪失してしまう。
傍にいた時間は自分の方が長い筈なのに。


「空はああ見えて、あまり人に弱さを見せない奴だから…、あたしに隠しているのかもしれない。だが、あたしは空が好きなのだ。不安があれば言ってきて欲しいというか、なんというか」
 
「ふふっ。それは空さまも同じことを思っていることでしょう。なにせ、最近のお嬢様はぼーっとしておられますから」


お松はいつもあなた方を見守っていますけれど、空さまも大層お気になされているご様子でしたよ。

「それに」許婚の件は言っても困らせるだけと思ったのでは、お松は言葉を重ねた。
 

「許婚の一件はお嬢様お一人の問題ではないですから。旦那様や奥方様、二階堂家の皆様とも直結しておりますし」

「空は家族を大事にする男だから、あたしの家族を思って何も言わないのかもしれない。父さまや母さまは、空との関係をお遊びだと見ているしな。三女に期待なんかしていないくせに、財閥の面子だけはやたら気にして…、空との仲を認めてくれない。命を張ってくれて守ってくれたというのに。ばあやは…、やはりお遊びだと思うか?」
 
 
 

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