某車内にて 【某日晴天 車内にて】 車窓から見える景色はまるで回り灯籠(どうろう)のようだ。 似たり寄ったりの街並みが流れては消え、流れては消え、エンドレス。 古びたたこ焼きや、何処に属するか分からないシャッター店。 最先端の流行りを取り入れようと一際目立っている服屋に、人の出入りが激しいコンビニ。 つまらない景色だと溜息をついていると、向かい側に座っているお目付けの蘭子(らんこ)に苦笑された。 彼女は今年で四十になるベテランのお目付けだった。 着物がよく似合う女性で、今日も淡い紺の着物を身に纏っている。 なんだとばかりに視線を流せば、「ご機嫌ななめのようですね」現在進行形で抱いている心情を指摘される。 不機嫌にならないわけならないではないか。 これから向かう場所を考えると胃もキリキリする。 ナニが悲しくて、馬鹿げた行事に出席しなければならないのだろう。まったくもって令嬢も楽ではない。 「玲(れい)お嬢様、そう不貞腐れたお顔をしても仕方がないですよ。我慢して出席して下さいな」 今日のパーティーは貴方様の伴侶が見つかるかもしれない、大事なパーティーなのですよ。 毎度パーティーが行われるごとに言われるお決まり台詞にもウンザリだ。 苛立たしく玲は溜息をついて、荒々しく前髪をかきあげた。 「ナニが伴侶だ」一生決まる筈などない、キッパリツッパリと鼻を鳴らす玲は腕を組んで口を一の字に結ぶ。 伴侶なんていらない、自分がバリバリと未来の財閥のために仕事をすればいい話だ。 「そう言われましても、いずれ後継者が必要となります。ご家庭だって欲しいでしょう?」 養子でも取ればいい、フンと鼻を鳴らす玲は舌を鳴らして大反論。 「僕は男嫌いだ。君も知っているだろう? このような性格だから、珍しくも許婚がいないんだ。いや、白紙になったというべきか。まったく男のナニがいいのか、僕には理解できない。断然女の子の方が可愛いし、可憐だし、魅力的な生き物だと思うのだが」 「……、玲お嬢様。そういう発言は公共の場では控えて下さいね。誤解されかねないので」 本当のことを言ったまでだと玲は素っ気無く顔を背ける。 「もう17だというのに」お嬢様は損していますよ、蘭子は肩を竦めた。 17といえば花盛り、学園生活も然りだが、恋愛も積極的に歩んでいい年頃。 なのに目前の令嬢はいつも女子と戯れて。歩んでくる男子を一蹴しているというのもあるだろうけれど、それにしたって恋愛に対して消極的過ぎる。 彼女の父も、どうにかして男に興味を持たせたいと躍起になっているのだが、結果は謂わずもこれだ。 はてさて困った。 彼女はどうしたら男に興味を持ってくれるのだろうか。 ……あ、そうだ。 蘭子は玲の興味を示しそうな話題を切り出した。 「最近、鈴理令嬢が恋に夢中だそうですよ」 [次へ#] [戻る] |