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03-03



くそう、なんだよ…、さ、さ、誘うって!
自分からネクタイやボタンを外すとかっ…、んで、…、ネクタイで縛られても無抵抗。

嗚呼、眩暈。
近未来の俺を見ている気がしないでもない。俺、全部を諦めてこうなっちゃうのかなぁ。


草が生い茂った地面に寝転び、切ない気持ちになりながら仰向けになってノートを開く。

ぱらぱら、ページを捲ってめくってめくって…、うっ、涙腺が疼いてきた。

俺、あーされて、こーされて、こんなことも。
ああっ、そんなっ、それはあんまりっす! 鈴理先輩、鬼畜過ぎるっす。

グスンと涙ぐむ俺を余所に、「折角盛り上がってきたというのに」鈴理先輩はちょいと不機嫌になって脹れ面を作っている。
 
だけどそれもすぐに一変、「これぞ生ドラマCDだな」癖になりそうだと微笑を零した。


分からない人のために説明しよう。
 

俺もさっき先輩から聞いて知ったんだけど、ドラマCDとは、CDに音声のみのドラマを収録した物を指すらしい。
 
鈴理先輩、小説を読みながら思ったんだって。
この小説は自分達の分身、だったら音声があっても良いんじゃないかと。

いたらん思い付きをした鈴理先輩は、わざわざ俺視点の小説を持ち出し、こうして音読させているってわけだ。

自分の台詞はちゃーんとご自身が言って下さるもんだから凝ってるよな。


「いつか本物のドラマCDを作っても良いかもしれない」
 

鈴理先輩は胸を膨らませ、ホックホク顔で俺の手からノートを取ってページを捲る。

特に濡れ場は力を入れたい、なーんて仰って下さる鈴理先輩に俺は内心で大号泣。

俺は無理そうっす。経験も無いんっすから。

じゃあ経験してみるか?
……性行為経験は安易にやっちゃいけないもんっす。だからノーっす。断固としてそこは譲らないっす。
 

「しかし残念だ。とても楽しみにしていたシーン前でオアズケとは。空に一番近い性格の小説を持ってきたというのに…、何が不服だ空。あんたらしい目線で書かれているではないか」

 
ぶうっと唇を尖らせる鈴理先輩はこんなにもスバラシイのに、と鼻を鳴らす。

全部が不服っす。
特に濡れ場、最高に不服っす。

なんて言ったら最後、俺はど突かれる、もしくは押し倒されるだろうから(絶対後者だな)、オブラートに包んで物申すことにした。
 

「ちょいちょい俺じゃない空さんが暴走してますっすよ。本物の俺は学校で誘うような行為したことないじゃないっすか! な、なんて破廉恥な!」


学外ではキスを誘ったこと、あったようなー、なかったようなー、だったっすけど。


「うーむ。空が受け身なのはあたしにとって涎が出るほど喜ばしいことなのだが、少しは積極性を身に付けても良いと思うぞ。可愛らしい積極性なら、あたしも受け入れる」
 

涎ってところにツッコミを入れちゃなんないんっすよね。分かります。俺もスルースキルを高めることにします。
 
「積極性っすか?」例えばキスを仕掛けるとかっすか、俺の問いに鈴理先輩はそうだと頷く。
  

「キスを仕掛けて“鈴理先輩。俺を抱いて下「積極的過ぎっす」

「ではキスを仕掛けて“鈴理先輩。俺を食べて下「言い換えても一緒っす」

「……、キスを仕掛けて“鈴理先輩。ベッドにい「先輩。諦めも人生においては大事だと思いますっす」


「チッ…、だったらレベルをグーンと下げてやる」

 
理不尽な舌打ちきたよっ、今のは俺が悪いんっすか?! 性格を考慮してくれない先輩が悪いんじゃないっすか!
 

「よし。キスを仕掛けて、あたしに飛びつくはどうだ。とても意地らしいではないか!」

 
空の好き好きオーラを醸し出して甘える姿が見たい。
 
それこそ愛犬のアレックスのように好き好きオーラを醸し出す甘えたな空が見たい、いや見せろ、今すぐに。それが所有物のやるべきことだ。
 
 

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