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02-03




「しかも…、鈴理令嬢の彼氏でして」



うちの娘同様、変わり者と称されている竹之内財閥三女の彼氏、だと?

こ、これは困った事態である。
幼い頃から何かと好敵手として対峙していた二人が、嗚呼、まさか恋愛に関してまで対峙することになるとはっ。
 
いやある意味、これは運命なのかもしれない。

何故ならば二人は好敵手、なにかと趣味が合う二人であるからして…、だからってうちの娘はなんでよりにもよって竹之内財閥三女の彼氏に目を付けてしまったのだろうか。

 
「困りましたね」一子は夫に視線を流す。

男に興味を持っても、持ったその時点で失恋してしまっては、今以上に男嫌いになりうる可能性もある。

それだけは断固として阻止したいところだ。
失恋を契機に、本当に彼女を作ってしまいそうである。

唸り声を上げる源二は、「三女には許婚がいただろう?」問い返す。

なのに彼氏を作っているのか。
それは竹之内家、二階堂家にしてみれば不味いことでは…、首を捻る源二に、蘭子はそうですね、と相槌を打つ。


「向こうの親御さまは、ただのお遊びだと考えられているようです。けれど此方としては、折角の機会でございます。どうにかして、玲お嬢様には男性と親密になって頂きたい。なにより、私はお嬢様のお子様をお目に掛かりたいのです」


あのままじゃ彼女を作ってしまいそうでしまいそうで。

昨夜のパーティーに向かう途中でも、「養子を作れば良い」などと申し上げたのですよ。涙が出そうになりましたとも。

 
お目付けの嘆きに、夫妻もついつい嘆きたくなった。

娘はどうして、そう安易に物事を考えるのだろうか。親心がまったく分かっていない。
 
そんな娘は今、どうしているのだ。
夫妻の疑問に、蘭子は一変して微笑。

お話するよりも、自分の目で見た方が宜しいですよ、と手招きして腰を上げる。異存のない夫妻も当然腰を上げたのだった。
 
 

 
―――…蘭子の導きの下、夫妻が目の当たりにした光景は微笑ましい限りのものであった。

 
男勝りの我が娘は自室前の縁側に腰掛け、膝の上で頬杖をついて呆然。
 
庭に舞っている小さな蝶を眺め、ししおどしの音に耳を澄ませ、宙を見つめて、重々しく溜息。

唸り声を上げ、「なんで僕はっ」と時折昨晩のことを思い出しては頭を抱えている。

 
耳が赤いことから随分と意識している様子。それとも羞恥からだろうか?
 

「豊福は男っ、分かってはいる。いるんだっ。だが信じがたいっ、僕は男を口説いた挙句っ、さ、誘うッ…、な、なんてことだ! そういう意味で誘ってはないにしろっ、財閥界で噂になってしまったっ!」


嗚呼、やっぱりあいつは女なんだっ、そう思いたい、じゃないと僕自身が納得いかない!
 
髪を振り乱し、ぐわああっと頭を抱えに抱えている玲は、「男なんて」いつもの口癖を零した後、軽く目を伏せ、溜息をついた。


(豊福の女に対する気持ちを初対面ながら知ってしまったから、嫌悪しなかった。それは認める。あいつと話していると、男ということも忘れてしまう。それも認める。だから少し興味を持ってしまったのかもしれないが…、なにより興味を抱いてしまったのはあの時だ)


ごろんと縁側に寝転がり、頭の後ろで腕を組んで玲は記憶を引きずり出す。

本当に興味を持ったのはあの瞬間だ。

そう、空が会場を抜け出しロビーで時間を潰していたあの時、なんとなく後をついて行った自分の目に飛び込んできた、あの物寂しい表情を目の当たりにした瞬間から、本当の意味で興味が出てきた。
 
 
なんであんな表情をしていたのだろう。
 
スーパーでは満面の笑みを浮かべて、意気揚々とタイムセールについて語っていたくせに。
 
 

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あきゅろす。
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