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01-20



落ちるに過剰反応を起こした俺は、一層乗れないと泣き言を漏らしたわけだけど、「落ちない」鈴理先輩が根気よく説得に掛かった。
 
「空は勇気を持って高所から景色を眺める事ができただろう? だから乗れるさ。すぐに着くから」

「でも高いっすよ。怖いっす」

「大丈夫。空ならできる」

俺にだけ聞こえる声で、怖いなら手を繋いでおいてやるからと励ましを頂く。
ここまでしてもらったのだから、俺も泣き言ばかりを並べるわけにもいかない。

「がんばるっす」鈴理先輩に小声で呟く。
「そうか」良い子だと褒めてくれる彼女は、待っている皆の下へ俺を連れて行く。

俺は皆に愚図ついた詫びを告げて、再度エレベータとやらに挑戦。
スケルトンの構造に眩暈を覚えつつガタブルでエレベータに乗った俺は、わざわざ景色の見えない四隅に移動させてもらって始終震えていた。

ははっ、情けない。ほんっと情けない。でもこっわーい!


「な、長いっす…先輩。ま、まだっすか」

「もう少しだ。頑張ろう空」


しかも鈴理先輩にしっかりと手を繋いでもらったもんだから究極に情けなかった。

ご、ごめんなさいっす、ヘタレで。
だけどこれだけはっ、今すぐ直せそうにないっすっ!

実は一部始終の光景を御堂先輩が目撃していたんだけど、残念なことに俺はそのことに気付かずにガタブルブルでエレベータをやり過ごし、どうにか皆で会場があるフロアへと到着。


これまただだっ広い会場とシャンデリア、高そうな絵画が俺達を出迎えてくれた。
 

会場に入れば満目一杯の丸テーブルにホワイツテーブルクロス、その上には様々な料理が並べられている。

どんな料理が並んでいるかというと、あー俺の知識の限り、伝えられそうな料理は生ハムとモッツァレラチーズのサラダに、ロース肉? 唐揚げっぽいヤツ?

あれはなんだ、フルーツの盛り合わせでいいんだろうか?


ダメだ、殆ど伝えられそうなものがない。見たこともない料理ばっか。
 

美味しそうと思う前に、外国人が初めてその文化の料理を目の当たりにしたような衝撃が俺と川島先輩に走っていた。


「わぁおこれヲ食べるンデスカ? ボクタチが食べる? ウソミタイユメミタイ」


という気持ちが占めちまって占めちまって。
 

簡略的に言えば想像を絶する料理ばっかだったんだ。
 

平然と会場に入る鈴理先輩や大雅先輩、宇津木先輩、御堂先輩は揃いも揃って「まあまあな料理」だってご感想を述べていたんだけど、果たしてこれが“まあまあ”なレベルだろうか。


じゃあ普段食べている俺等の料理は“下の中”だとでも?

それも大層失礼な話だけど、こんな料理を見せつけられたら、“下の中”を認めざるを得ないかもしれない。


「アリエナイ」


料理達に率直な感想を述べる川島先輩。

本当に庶民出身者が一人でもいてくれると心強いもんだ。


「料理でこっちの世界観が分かりますね」


俺も率直に感想を述べた。キラキラのつやつやした料理たちに目を皿にするしかないもんなぁ。



はてさてご馳走が目の前にあるんで、んじゃあ早速食べますか。

なーんてことにもならず。


まず七時ジャストに開催の挨拶。
 
次に代表の財閥のご挨拶があって、各々近状の報告会、んでもって此処を貸し切らせてくれたホテル支配人のお言葉等々。

まるで体育祭の開会式にでも出席しているんじゃないかってくらい長ったらしい挨拶があった後、ようやく立食パーティーが始まった。


俺と川島先輩はわぁい食べましょうそうしましょうと、無遠慮に食事を始めるんだけど、財閥チームはそうもいかないみたい。
 

各々挨拶回りをしていた。


ほんとに大変そうだな、皆。

愛想笑いを振り撒いて見知らぬ財閥二世、三世と言葉を交わさないといけないんだから。あの大雅先輩も引き攣り笑いで応対しているもん。

御堂先輩はもっぱら、女の子ばっかに挨拶してるみたい。
男には見向きもしていない。
 

「大変っすね」俺は山盛りのロース肉をフォークで刺し、もぐもぐと光景を眺める。

「だねぇ」庶民で良かった、川島先輩は同情し、大量の高級フルーツをフォークで刺してこれまたもぐもぐと食事を進めていく。


俺達のメインは夕飯だから、こうして能天気に食事ができるわけだけど、財閥二世、三世は未来がかかってるみたいだもんな。メンドクサそう。

最初こそ同情していた俺達だけど、各々美味過ぎる食事に感激してテーブルから料理を取り分けることに熱中していた。

ロース肉、マジで美味い、美味いや。

これ父さん、母さんの土産にしよう。


「あ…、向こうに先輩のご姉妹がいる」

 
テーブルからテーブルに移動していた俺は鈴理先輩の姉妹を見つける。

会場の奥に竹之内家姉妹が肩を並べて、どっかの財閥さん方と談笑していた。

挨拶しに行きたいけど、なんだか挨拶しに行けそうな雰囲気じゃない。

邪魔したら悪そうだ。挨拶できる余裕がありそうなら、挨拶しに行こうかな。
 


ドン―ッ、体に衝撃が走った。



つんのめりになる体をどうにか持ち直して、俺は零れそうになるロース肉を気にする。


ど、どうにか床には零さなかったみたいだ、セーフ! てか誰だよ、俺を押した奴!
 

首を捻ると同時に、「すみません!」ぺこぺこと平謝りされた。

見るからに頼り無さそうな優男さんはズレた眼鏡を掛け直して、「前をちゃんと見てなくて」と微苦笑。

そういうことなら仕方が無いけど…、スーツを身に纏っている優男さんに大丈夫だと綻ぶ。

向こうは安心したように胸を撫で下ろし、「さてと」何処にいるんだろう、周囲をキョロキョロし始めた。




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