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01-19



刹那、ドンッと前の人とぶつかって、俺はつんのめる。余所見をしたせいだろう。
 
「おっと」前の人は俺の体を受け止めてくれた。

面目ないっすっ、余所見をしていたせい…っ、今ぶつかったのはっ、ゲッ、御堂先輩! 


ゲゲゲッ、やっちまったっ、男嫌いの彼女にぶつかるとか、しかも体を受けてもらうとか最悪も最悪だろっ!

慌てて上体を起こす俺は、「す…、すんませんっ!」両手を合わせて謝る。
 

「お、お怪我はないっすか? 俺、余所見していたもんだから…」

「君は男のクセに何をやっているんだい?」


グサッ、嗚呼、胸に25のダメージが。
 
で…ですよねぇ、男のクセに女に受け止められるとかダサイっすよねぇ。

自覚はあるんっすよ、自覚は。本当にごめんなさいっす。
 

「しかも何故だろうか、君は受け身に慣れているような気が」


グサグサッ、195のダメージ!

う…、嘘だっ…、マジでっ、俺、そんなに受け身に慣れて…、いやそりゃあ思い返せば鈴理先輩に対して受け身を取らざるを得ない態度ばっかり取っていたものだから、ある程度は慣れているかもしれないっすけど…、でも、でもぉおお!


(今日初めて会った人に受け身に慣れてるんじゃないか? なんて、そんな、そんなことってぇええ!)
 

がーんっとショックを受ける俺は、「やっぱりモロッコか」女になるしかないか、娘になるしかないよなぁっ、ずーんと落ち込んで頭上に雨雲を作る。

そうか、そんなに俺は受け男として出来上がっているのか。草食系男子の地位さえ危うい受け身男になっちまってるのか。

ははっ、男としての自尊心もなにもねぇやい畜生。
女になっちまおうかなぁ、いっそのことオカマになって夜の商売…っ、俺、どうしておにゃのこじゃないのだろう。
 
立派に男してた筈だったのに、何をどうしたら、道を踏み外してっ…、全部鈴理先輩のせいっす〜〜〜ッ!
 
人のせいにして心中で涙を呑んでいると、「ははっ」御堂先輩に笑われた。
 
うわ…、き、傷付く…、人がショックで落ち込んでいるところに追い撃ちをかけないで下さいよ。そりゃあ男らしくなかったかもしれませんけど。
 
 
恨めしく相手を見やると、びっくり仰天。

彼女は嘲笑ではなく普通に笑声を漏らしていた。
てっきり馬鹿にされたかと思っていたんだけど。笑うとこれまたカッコイイんっすね、御堂先輩。
 

「顔が百面相になっているぞ。君は短い間に色んな表情を見せるんだな。初対面から説教したり、赤面したり、落ち込んだり。豊福を見ていると君が男と、ということを忘れてしまいそうだな」

「え、ああ…、そうっすか? ……って、なんかスンゲェ複雑なんですけど。俺は残念でも男っす」

「分かってる。だが君は男という感じがしない。きっと君が主婦のようなことを言ったからだろうな。君は女を賞賛したしな」
 

ウィンクしてくる御堂先輩は颯爽と歩みを再開した。
 
男のような感じがしない。なーんて言われた俺は複雑な気持ちを抱えながら、彼女の後を追う。

やっぱり俺、モロッコに行くべきなのだろうか? まあ、怒られなかったからよしとしよう。



さて、財閥交流会の会場は15階にあるらしい。


15階まではエレベータに乗るんだけど、このエレベータが曲者だった。

何故か?
答え、エレベータの中から景色が見られるから。

何度も言うように俺は高所恐怖症。高いところは大の苦手で大嫌いだ。

だからエレベータの構造を見た瞬間悲鳴を上げたね。
なんでわざわざスケルトンにしちゃってるの、このエレベータ! イミフっ、イミフだぁあああ!


俺が我慢して乗れば終わる話だったんだけど、此処で一騒動起きてしまう。


そう、高所恐怖症の俺が駄々を捏ねてしまったんだ。

皆を困らせるとは分かっていたけれど、


「お、おぉお俺…、無理っす。の、乗れないっす」


顔面蒼白する俺は無理だと連呼して、先輩方だけ乗ってくれるよう頼んだ。

自分は階段を使わせてもらうから。
そう訴えてエレベータから逃げたわけなんだけど、鈴理先輩が俺を捕まえて大丈夫だと気を落ち着かせてくる。

ブンブンかぶりを振る俺は、「乗れないっす」無理だとヘタレた。

情けないって分かってるけど、こればっかしはどうしょうもない。


「空。皆で一緒に乗るんだ。ひとりじゃないから大丈夫。な?」
 
「仮にエレベータが停止して落っこちることがあっても、皆、一緒にどぼーんだぜ。怖くねぇって」



おぉおお落ちる、ですとな?
 
サァッと血の気を失う俺を余所に、「大雅!」鈴理先輩は大喝破。飛び膝蹴りをお見舞いしていた。


紙一重に避けながら、「俺は励ましたんだって」彼は両手を上げて無抵抗を示している。気遣いが余計、恐怖心を煽いだっす。大雅先輩。
 
 

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