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09-19


嫌味を飛ばされてもなんのその。

大雅先輩は大袈裟に溜息をついて、「俺は親切心から連絡を寄こしてやったんだぞ?」でもお前がそれならしゃーないよな。べっつに俺は切ってもいいぜ? ヤーレヤレと言ってスマホの画面をこっちに向けた。

刹那、「センパイィイィイイ!」俺は婚約者に全力でSOSを出す。

驚愕しているのは御堂先輩。
あ、学校にいるのかな。
制服が学ランじゃなくてセーラー服にっ、じゃなくって!

「御堂先輩っ、助けて下さい! あたし様がいきなり襲ってきたんっすよ! このままじゃ食われちまいますぅうう!」

「こら空。今はあたしとお楽しみ中だ。こっちを向く」

両手で無理やり首を捻られた。
 
にっこりと笑ってくる悪魔は「さあて何処から頂こうかな」なにせ空の性感帯は複数あるしな。

耳にしようか、
その中にしようか、耳殻を丹念に舐めるもよし。

おっと耳たぶも美味そうだ。

唇も良かろう。
臍を舐めてやるのも悪くは無い。

それとも未開発地に触れてみるか。

物騒なことを仰る鈴理先輩に青褪めてしまう。目っ……、目が本気だ。イッちゃってる。
 

「ふっ、ふふふっ、禁欲を強いられた分、鳴せるから覚悟しろ。そこにいる連中は置物とでも思っておけばいい。人の目も時に快楽となるものだ」
 

俗にいう公開プレイだ。嬉しいだろ?

にっこりからニンマリに笑い方を変えてくる鈴理先輩は両手を合わせてイタダキマス。

意気揚々と俺のボタンに手を掛けた。


「エッチっす!」死守する俺に、「褒め言葉として受け取っておこう」あたし様が口角をクイッとつり上げる。

はてさてこのまま流されてしまうのかと思いきや、そうは問屋が卸さない。


『鈴理―――!』


大雅先輩の持っている機具から怒声が上がった。
 
『君は何をしている!』

婚約者がいながら、僕の婚約者に手を出すなんて! ギリリと奥歯を噛み締める王子に対し、鈴理先輩は疎ましそうに顔を上げた。

「邪魔をするな。あたしと空はこれから、愛の時間を過ごすのだから」

『大雅でしろと言っているんだ! その手を退けろ。触れていいのは僕だけだぞ!』

「誰に向かって口を利いているんだ。あたしはシたいようにスるだけのこと。あんただって婚約以前はすーぐ空にちょっかい出しただろ? それに、婚約はしたがそれはそれ。これはこれだ。一度くらいエッチして何が悪い!」

一でも十でも悪いもんは悪いですよ鈴理先輩! どんだけ暴走しているんっすか!
 
大雅先輩も、のほほんと見物していないで止めてやって下さいよ!


「残念だったな玲。他校生がゆえに婚約者の貞操が守れないとは。せいぜい悔しがるが良いさ。そこで指を銜えて見てろ!」

 
勝利の笑声を上げる鈴理先輩がどうしょうもない悪女に見えるのは何故だろう? あれでも彼女は俺の元カノなのだけれど。

スマホの画面の向こうが微動している。こめかみに青筋を立てている御堂先輩がそこにはいた。
今にも噴火してしまいそうな怒気を纏っている。
 

「テメェな。あんま玲を怒らせるなって」


目的が変わってくるだろ?
 
やっと大雅先輩が口を出してきた。
仕方が無い、俺の腹の上に座り込むあたし様は「三十分だ」と時間を口にした。

「三十分以内にエレガンス学院のこの教室に来い。でなければ空を食う。多忙なら来なくても良いぞ。あたしがこいつを美味しく頂くまでだ」

『そこまで挑発になるということは、それなりの覚悟があってのことかい?』

「さあな。それはあんたが此処に来て確かめるがいいさ」

『応援団は何をしているんだ。豊福を監視しておけッ、ゴホン。見守っておくよう指示していたのに』

「あいつ等ならあたしのドS攻撃にハァハァしておったぞ」

『……あのクソ男共、シバキ倒す』


「とにかくいいな、玲。三十分以内だぞ。空はあたしが預かった!」


言うや否やネクタイで括っている人の右腕を取ると、がぶり。
 
「アイッター!」なんで噛むんっすかっ! ぎゃあぁあ痛いっ、この人、本当に肉食獣に成り下がっているっす! ブンブンと腕を振る俺をもろともせず、鈴理先輩は人の腕をがぶがぶしている。表現は可愛らしいかもしれないけど、結構痛いよこれ!

「何してるんっすか!」「うまひ」「美味いじゃないっすっ。お放しなさい!」「むーっ」「嫌じゃないっすよ!」「むっ」「アイダダダっ!」「ぬっ、ひょふへい?」「嬌声じゃなく悲鳴っす!」

ギャーギャー騒いでいる俺達にやれやれと大雅先輩が肩を竦めて、「元気になった途端これだもんな」呆れ顔を作ってスマホの画面を自分に向ける。
 

「ってことだ、玲。なるべく早くこっちに……、あ、切れちまった。教室と言っても、俺等がいる教室は教えてねぇのに」
 
 
こりゃ三十分後が修羅場も修羅場だな。

頬を掻いて肩を竦める大雅先輩がこっちを見てくる。

まだ俺の腕をがぶがぶしている鈴理先輩に煽り過ぎだと呆れた。

「うゆひゃい」反論するけどやっぱりお口を放してくれない。

いい加減にしろと俺様があたし様の頭を叩いたために彼女がようやく解放してくれる。

痛かった。噛まれた箇所を吹き、改めて俺は先輩方を見上げる。いや睨む。


「どういうつもりっすか。鈴理先輩といい、大雅先輩といい、なんかグルみたいっすけど」


「悪い悪い」ちと玲とお前に用があってよ。片手を出す俺様の余所で、「あたしは本気で襲うつもりだったのだが」ああ美味そうな獲物だな、ジュルッと生唾を飲んでくる。

……怖い。あたし様が本当に怖いんだけど。


「それでだ豊福。これも悪く思うなよ。万が一を考えて」
 
 
シュルッ、大雅先輩が自分のネクタイを解いた。
 
とてつもなくヤーな予感がした俺が悲鳴をあげたのはこの直後のことである。

すっかり傍観者になっていたフライト兄弟が廊下に避難し、陰からそっと「ごめん」「助けられねぇ」と言って見守っていたのは俺の知るよしも無い。



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