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09-07


 

「けどきっと、俺達は夫婦になっても上手くいかねぇと思っている。どっちかってっと悪友のままの方が上手くいく、きっとな」

「大雅……、あんた。何が言いたい?」


回りくどいぞ。鈴理にずばり指摘され、大雅は静かに答えた。


「お前のやりてぇことにとことん付き合ってやる。そう言ってんだよ。婚約、解消してぇんだろ?」
 
 
静寂。沈黙。無音。
 
室内に音が掻き消えた。
 
瞠目して体ごとこっちを向いてくる婚約者にしたり顔を作ってやる。

「できるわけ」頭から否定しようとする彼女に、「やってもしねぇで分かるのか?」そりゃ一人じゃ無理だ。大雅は素っ気無く返した。


「これは俺と鈴理、そして二家族の問題だ。が、結婚するのは間違えなく俺とお前だ。結局は俺達の問題で納まる。なら、俺達が足掻くしかねぇよ。結婚しなくても財閥は存続していくんだって親父達に見せ付ければいいんだ」


玲は言ったな?

環境を変えるにしても、人に認められるにしても、行動と結果が重視だって。
 
口ではなんとでも言える。
だが行動が伴わなかったら一緒だ。

人は口ではなく、起こした行動の結果で判断するものなんじゃないか? って言ってたよな。

 
あれって玲なりのお前への助言だ。

玲はお前が自分の前に現れるのを待っているんだよ。

簡単に豊福を手に入れたいなんざ思ってねぇし、お前のこともどっかで心配してんだ。

お前へのライバル意識が高くて高飛車な言い方しかできなかったようだが、あいつは待っている。お前のことを。
 
 
お前をちゃんとくだして豊福をものしたいんだよ。

 
分かるか? あいつの気持ち。

ライバルと友人の気持ちが混ざってそんな態度を取ったんだ。
玲が借金の件で救済方法を出したのはそのためだ。お前にチャンスを与えたんだよ。

メリットなんてねぇのにそうするってことは、どっかでお前が姿を現してくることを望んでいるんだよ。

お前だって豊福のことを変に諦めきれていないのは、自分で選んだ道じゃないからだ。
失恋するにしても、なんにしても、この未来は親父達が勝手に決めた道であって俺達じゃない。

だからお前は余計に納得しちゃねぇんだよ。

 
さっき兄貴たちの話題を出したな?
俺は自分で納得したからこそ、諦めがついている。お前はどうだ?


なあ鈴理、どうせなら自分達でやりきって挫折しちまおうぜ。
 
死ぬ気で行動を起こして、それでも駄目って時もある。
 
その時は自分達の力不足だったって認めて、親父達の指示に従おう。裏で俺達が子供だったって嘆けばいい。

まだ何もしちゃねえじゃんかよ。俺もお前も。

本気で、それこそ死ぬ気で環境を変えようとしたか?

お前、豊福が好きなんだろ? 努力する姿が好きだったんだろ?
 
 
じゃあ、お前も倣って努力すればいい。あいつに見せ付けて惚れ直させりゃいい。


「いつもの凄まじい行動力はどうした? 最近のお前、超おとなしかった。らしくねぇよ。お前なら豊福から友人でいようって言われても、突っ走って相手を物にすると思っていたけど、全然だったじゃねえか。
……それって家族のことがあってだろ? けど俺達が結婚して財閥が幸せかって言ったら、絶対そうとも限らねぇ。絶対なんてねぇ。どうする? 二階堂家と御堂家、どっちも破産したら。それこそ俺とお前で借金生活だ! そういう未来がないとも限らないぜ? つまり何が起きるか分からないってことだ」


「……大雅」

「手前の人生だ。お前の好きにしていいんじゃね? どうする、鈴理。全部を諦めて婚約者の俺に抱かれるか。それとも手前で決めて、俺と結果を出してみるか。成功したら万々歳。失敗したら、あー、しゃーねぇから優しく抱いてやる」
 

「このままじゃお前は後悔するぜ?」自分で決めない人生を歩んじまったらさ。我の強いお前だ。他人に人生決められちゃ癪だろ?

呆けつつも静聴している鈴理にそう告げると、飲みかけのイチゴミルクオレに手を伸ばした。
 
まったく健気にも元カレの好きなものを飲んでいるようだが、やっていることが無いものねだりだ。

らしくない。
鈴理はもっと行動力のある我が儘お嬢様なのだ。

欲しいなら欲しいなりの行動を示せばいい。今までのように。

「豊福はどうしょうもねえ」
 
あいつは既に雁字搦めの環境にある。努力じゃどうしようもない域だ。


「でも俺達はまだちげぇだろ? まだお前は間に合う。よーく考えて決めろ、鈴理。お前自身の中でどうしてぇか。その答えによっちゃ一緒に付き合ってやるさ」


相手の反応を見ず、大雅はグラスの中身を飲み干す。

口内に広がる甘さに思わず、「番茶が飲みてぇ」と零してしまった。



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