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09-06

 
もう、お前の気持ちに応えられないところまで落ちちまったんだよ。
 
あいつは根が優しいから、お前のことを気遣って今の今まで婚約の真相を告げなかったみてぇだしな。気揉みさせるより、恨まれた方が後腐れねぇと思ったんだよ。

豊福も言っていただろ? これからは御堂家にすべてを捧げるって。あいつにはあいつの人生がある。家族のため、自分のため、未来のために御堂家に仕えていくしかねぇんだよ。
 
この際、ハッキリ言うぞ。
鈴理。豊福のことは諦めろ。

あいつに深入りするだけ、お前が傷付くだけだ。豊福もそれを望んじゃない。


なにより、あいつはもうお前のものじゃない。玲のものだ。
 
 
男にはすこぶる厳しいあいつだが、豊福には心を許せている。

あいつも豊福がガチで好きになっちまったんだよ。
見ただろ? あいつの傍にいる姿を。男嫌いのくせに優しそうな面していたじゃねえか。

玲なら豊福を大事にするだろう。
 
その内、豊福もあいつの良さに惹かれて恋に落ちるだろうさ。


そういうことに関しちゃ玲は巧みだからな。
豊福の幸せを考えるなら身を引くべきじゃないか?


「なあ鈴理。悪いことは言わねぇ。豊福のことは忘れちまえ。ああいう男、他にもいるって」


大雅が努めて優しく言うと、「そんなこと分かっている」できたら苦労はしない! と突っぱねてきた。

何もかも分かっているのだと鈴理は喝破する。
これ以上、部外者の自分が深入りするべきではないことくらい、玲に彼を託したほうがいいくらい、分かっているのだ。


けれど諦められないから苦しいのだ。

似たような男がいてもそれは豊福空ではない。自分が好きになった男は彼だけなのだ。


「執着と言ったらそうかもしれん。だが、諦めようとする度に思い出が溢れ返るのだ。キスした日々も、当たり前のように傍にいた日々も、守り守られていた日々も。誘拐された日の時すらも」
 
 
短期間ではあれど、濃い時間を過ごしてきた。
 
諦めすら一蹴してしまうあの日々。
簡単に忘れられる筈もない。
こればっかりは現実として受け止められないのだと彼女は声を荒げる。


どうやら逆鱗に触れてしまったようで、もう話したくない。帰れと椅子の上で胡坐を掻き、彼女から背を向けられてしまう。
 
 
ある程度、予想していた態度に肩を竦め、「あたし様も形無しだな」すっかり男に骨を抜かれちまって。俺の知る鈴理じゃねえや、と皮肉を零す。
 
反応を示さない鈴理に構わず、「俺さ。百合子が好きなんだわ」前触れも無い身の上話を出した。

やはり反応しない幼馴染に、「時々無性に消えたくなる」なんで兄貴の許婚を好きになっちまったんだろうな。俺、邪魔だわ、そう微苦笑を零し、気持ちを吐露する。

すると鈴理が微かに反応した。こちらをチラ見してくる。
   

「先の視えた末路なのに、馬鹿みてぇに義姉予定の女を思う男。その存在は兄貴にも、百合子にも邪魔の他なんでもねぇ。あいつ等は少なからず相思相愛なんだからよ」

「……奪えば良いではないか」

「できるわけねぇだろう? 俺は兄貴にも百合子にも幸せになって欲しいんだから。自分で決めたんだよ、俺は兄貴から百合子を奪うより、兄貴と百合子を見守ってやるべきだって」


兄貴は百合子と俺をいつも守った。
 
ヘラヘラしてっけど兄貴がマジになると俺でも怖ぇって思うくれぇ、やってくれる男だ。兄貴の実力を認めているし、百合子も少しならず兄貴に気持ちを寄せている。

じゃあ俺に出来ることはなんだ? 関係を壊すこと?

んなこと俺は望んじゃねぇ。
守ってくれる兄貴の背中を見て、俺はこいつと百合子を見守りてぇって思った。

しょーがねぇから貧乏くじ引いたってことで、二人を支える役回りに立ったんだ。自分で決めてな。

そりゃ嫉妬しねぇって言ったら嘘になる。けど自分で決めたから虚しさはねぇよ。自分で決めたんだから。

じゃあ、お前は?

 
「鈴理、テメェの諦められない気持ちは執着じゃねえ。自分で決めて物事を終わらせていない不満が、そうさせているんだ。テメェは不満なんだよ。親が敷いたレールの上を歩んでいることに。そりゃそうだよな。望んでもいないのに豊福と別れさせられたり、俺と婚約しちまったり」
 

それでもな。

テメェがどんなに嫌がっても俺はいつかお前を抱くし、お前は俺に抱かれる。

逆もあるかもしれねぇがそれ置いといて、つまりそういう運命だ。婚約した以上はな。

財閥は世継ぎと繋がりを重視している。俺の両親もお前の両親も例外じゃねえ。

 
俺達は夫婦になる、いずれ。

正直、俺は気が引けるぜ。

はっきり言ってお前のことは女として見るより、家族として見ている方が気持ちが強い。家族同然のお前を抱く気にはさらさらなれねぇんだよ。

でもお前のことは大事だ。お前が傷付くことがあれば、俺は容赦なく相手に食って掛かると思う。

てめぇみたいな女に対してそう思う俺がいるんだぜ? 頭がどうかしちまったんじゃね? とか思うけど、それを認めざるを得ない手前がいるわけだ。
 

もし、お前が俺の婚約者になることで幸せになれるんだったら、この運命を俺は受け入れるつもりだ。“本当に幸せになれるんだったら”な。
 


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あきゅろす。
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