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08-15




「お前のことしょっちゅう迎えに来ているみたいだけど、あの人、誰? 美人だったけど……、まさか彼女じゃないよな?」



教室。

昼食を取り終わった俺は自席に着いて、新書を読み漁っていた。
今読んでいる本は『マクロ経済』と呼ばれる経済の本。
 
「なーあ」アジくんに顔を覗き込まれてしまい、俺は読書を中断するしかない。「彼女じゃないって」変な誤解しないでよ、と俺は苦笑する。
 
「でもさ」毎日のように迎えに来ているじゃん。しかも空さまだって…、お前、あの人と密会してるんだろ! アジくんに頓狂な詰問をされたために俺はとんでもないと声を上げる。


「じゃあ誰なんだよ」


ジトーッと見据えてくるアジくんに、「知り合いだよ」それ以上も以下もないと俺は言い切った。

「知り合いねぇ」ただの知り合いが人を様付けするか? 疑心を向けてくるアジくんがエビくんを流し目にする。


「年上好みならしょうがないんじゃない?」


エビくんは大袈裟に肩を竦めた。

だから、蘭子さんは俺の彼女じゃないって!


「しかも弁当。最近豪華だし…、作ってもらってるんじゃねえの?」


ギクリ。

俺は何のことだとそ知らぬ顔で新書に目を落とす。 
 
「白々しいぞ」お前の弁当、最近五品以上おかずが入っているじゃんか。もやし炒めメインだった空の弁当が豪華。それってつまり、そういうことじゃね? アジくんが爽やかな笑顔で詰問を続ける。


確かに、俺の弁当は入学式以降悲惨だった。鈴理先輩と出会う前の弁当を知っているフライト兄弟だ。疑問を持って当然だと思う。

はてさてどうしようか。
 
此処は嘘をついて彼女だというべきか、それとも別の理由付けを探すべきか。


どうしても今、真実を語るのは気乗りがしなかった。

 
だから正直に言う。

「今は話せないんだ」ちょっと家庭がゴタついてて、と俺は苦笑いで誤魔化す。

ただいつかは話す機会がくると思う。

その時、話を聞いてやって欲しい。

俺の我が儘な申し出に空気を読んでくれたフライト兄弟は、いつか絶対聞かせろよって明るいノリで返してくれた。


そういうところが二人とも好きなんだよな。助かるよ、二人の明るさ。とても支えになる。
 
 
 
結局俺の秘めている事情は明るみに出なかったけれど、これはその内、表に出るんだろうなって懸念するようになった。

できることなら静かに学院生活を送りたいところだ。


でもそれは俺の私情にしか過ぎない。必ず明るみに出る時が来る。

俺は時折目に付く婚約カップルを見かける度にそれを強く思った。逃げ場はない。俺は近いうちにこの事情を二人に明かす時が来る。財閥に片足を突っ込んだ俺のさだめだ。


そういえば最近、鈴理先輩の笑顔を見なくなった気がするけれど、彼女は笑っているだろうか? せめて大雅先輩の前では笑っていて欲しい。切な気持ちを抱く俺がいた。

 


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あきゅろす。
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