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07-17
 
 
 

「裕作さん。今、何時?」

「うーん。七時十分。もう十分過ぎているみたいだが」



相手は遅刻しているらしい。

約束しているのに遅刻なんてっ、こっちとらぁ生活と人生が懸かっている一世一代の食事会だぞ! ああもうっ、早く来ないかな。待ち時間が一番堪えるんだって。
 
落ち着きなく時間を過ごしていると、母さんがふと疑問を口にした。


「お箸が並べられていますけど」全部で六膳、お箸が並べられていますね、向こうも三人ほど人が来るんでしょうか? と首を傾げる母さん。


さしずめ、肩代わりの人、秘書、弁護士ってところだろう。父さんは溜息をついた。
 

「せめて空の件をどうにかしないとな。空だけを預けるなんてできない」

「そうですよ。空さんを人質に取るなら、私達全員を人質にすればいいんです」


鼻息を荒くする母さんに俺は微苦笑した。

母さん、すっかり強気だけど大丈夫かな。心配してくれるのは嬉しいけど、気持ちが空回りしそうでしそうで。


それにしても早く来ないかな。

神経が図太いのか、腹も減ってきたよ俺。借金のことで話し合いに来たのに、生理的欲求には「嫌です!」


突然、廊下から喝破が聞こえた。

身を竦める豊福家はつい障子側を見やる。

「こんなの聞いてません!」何故学ランじゃ駄目なんですか! という声に、「我慢しなさい」すぐ着替えられるから、と諌める女性の声。

けたたましい声と共にバタバタと足音が聞こえたと思ったら、勢い良く障子が開かれた。
 
現れたのはスーツ姿の中年男性と、紫の着物姿の中年女性。



「いやぁ、すみません。すっかり遅れてしまって」
 


ぺこぺこと頭を下げる男性に唖然、申し訳ございませんと頭を下げる女性にも唖然。

呆ける俺達を余所に、「ああ。君がお相手の」と男性が俺の方を見つめて綻んでくる。

立派なご子息さんですね、と世辞を述べてきたんだけど、えーっとなんか雰囲気が違うような。肩代わりの人が男性で秘書が女性? じゃあ弁護士もすぐ入ってくるのか?


なーんて思っていると、「早く入って来なさい」と女性が障子向こうにいる相手に対し呆れ顔を作った。

「まったく」男性も呆れて、俺達にすみませんとまた一つ謝罪をしてくる。



「娘はとてもシャイでして」


 
あれ、弁護士は娘さん?
 
ますます混乱する俺達の前にやーっと弁護士さんと思われる女性が入って来た、ん、だけど。


俺はギョッと驚いてしまう。
 
目前に現れた女性は見覚えがある、というか見知った人物だった。


な、な、な、なんで貴方様が此処にいるんっすか。
毎度の事ながら神出鬼没というか、なんというか、いつもとゼンッゼン雰囲気が違うというか。

まず男装じゃない。え、男装していないよこの人。


可愛らしいフリルのワンピースを身に纏った御堂先輩が現れ、俺は声を失った。

いつも結っている髪が解かれていることがまた可愛いのなんのって美人だ。女の子だ。女の子な御堂先輩が俺の前に現れたんだけど。
 
 

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