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見合いの一件



【御堂家の長女自室にて】
 
 
「入るぞ玲。お前にとってとても嫌な話になるだろうが、少し話が「お断りします」

「いやまずは私の話を「僕には無理です」

「……、玲。話を「僕は見合いなど受けません」
 
 
御堂源二の言葉を最後まで言わせず、ばっさりと斬り捨てる玲は机上に載せている台本に目を通して親の方を見ようとしない。

苦虫を噛み潰したような面持ちを作る源二は、とにかく話を聞きなさいと強めに言う。
 
まずは親の方を見なさい、命ずるとぶう垂れた表情を作る玲が体ごと父の方を向けた。

畳の上に腰を下ろす源二は胡坐を掻いて玲を見つめる。
仕方がなしに父の前に移動した玲も腰を下ろして胡坐を掻く。
 
「玲。足」

女の子なのだから、そう注意されても玲はツーンとそっぽを向いた。気持ちは男だと返せば、父がこめかみを擦る。
 
結局胡坐のことは見逃してくれたが、話に関しては見逃してくれなさそうである。

不機嫌になる玲に、「行くだけでいいんだ」見合いを受けてくれないかと源二は話を切り出した。

 
「嫌です」


即答する玲に、これは父の命令なんだと源二が申し訳無さそうに吐息をつく。


源二の父。

つまり玲にとって祖父に当たるのだが、玲は祖父を快くは思っていない。彼女の男嫌いの根源は祖父なのだ。

玲は頑なに拒んだ。
心中は、誰があのクソジジイの差し金で動くか! である。
 

「前から言っていただろ? 見合いの話。それの日程が迫っている。お前のことを思って一度はお断りしたのだが、父は聞いてくれなかった。早く結婚してもらいたい気持ちがそうしているのかもしれないが」


正しくはさっさと孫を産め、だろ?
 
口に出さず玲は毒づく。そんなに孫が女だと不都合なのだろうか。忌々しい。
 
「相手も分からないんでしょ?」もしも父より年上だったら? 自分よりずーっと年下だったら? 顔が生理的に受け付けない奴だったら? 得体の知れない奴と見合いなんてできない、玲の主張にご尤もだと源二。

せめて相手を教えてくれたら良いのだが、と口を曲げてしまう。


「だがこのまま見合いから逃げても、玲が困るだけだ。祖父に結婚相手を決めかれないぞ」

 
斜め上の返答に玲は硬直してしまう。それは考えてもいなかった。が、確かにあのミイラ猿ならばやりかねないことである。
 
源二は愛娘のことを心配して見合いを受けて欲しいと頼んだ。

自分だって自分より年上の男が愛娘の旦那になるなんて想像もしたくない。

見合いを受け蹴ることは可能なのだから、我慢して見合いを受けてくれないだろうか。自分自身のためにも。


父の強い説得により、玲の心は揺れ始める。

しばし間を置き、「受けるだけでいいんですね?」玲は念を押した。強く頷く源二は結婚まで話を持っていかせないと約束してくる。


玲の心に決めた相手でなければ、此方とて許可できない。

断言する父の言葉を信用し、玲は渋々承諾する。自分自身のために見合いを受けよう、そう己に言い聞かせて。


「すまないな」


私にもっと力があれば、謝罪してくる父に玲は首を横に振る。

これは父のせいではない。祖父(ジジイ)のせいなのだ。


「そうだ。玲。見合いの時は女性らしく可愛いワンピース「スーツか学ランでいきます」はぁああっ、私はお前の育て方をどこで間違ったのだろう。見合いまで男装する奴が何処にいる」

 
此処にいると玲は素っ気無く返事し、「男なんて嫌いです」女の子を口説くほうが楽しいと父に告げた。
 
「頼むから彼女は作ってこないでくれよ」

嘆く源二の声が玲の自室に満たされる。出来ない約束だと玲が言えば、がっくり源二は肩を落としたのだった。
 
  
 
 


「―――…御堂家は代々女系族。まったくもって不快だ。此方は子息が必要なのだ。折角息子の源二が生まれても、孫が女では無意味。そのためにはさっさと玲に身を固めてもらわないとな」


とある屋敷の和室で、晩酌をしていた老人はシニカルに口角を持ち上げた。
 
早くひ孫の顔が見たい。否、ひ孫は必ず男でなければならない。どちらにせよ孫には身を固めてもらわなければ。


御堂 淳蔵(みどう じゅんぞう)はお猪口を傾けながら秘書が持ってきた書類に目を滑らせる。

食えない笑みがまた一つ、淳蔵から零れた。
 

「世継ぎを生む可能性が垣間見えたならば、さっさと流れを作れば良い。そうだろ? 玲」 



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