07-03
「というより、現在進行形です。あたしはまだ恋をしている。関係が変わっても」
「鈴理さん……」
「けれど今のあたしでは、強く恋に踏み込むことが出来ない。あたしの婚約はあたしだけの問題じゃないのですから」
あたし一人なら、また相手にぶつかることができるのに。いつものように猪突猛進に当たっていけるのに。
空も分かっていた。あたしのバックには二家族や将来が待ち構えている。だから関係を変えないといけない。
あいつは、過去のトラウマから誰かの人生を変えてしまうことに過剰なほど恐れていた。
分かってた筈なのに、あたしはあいつの不安を気付いてやれなかった。守ると言ったのに。
あの誘拐事件で体を張ってまであたしを守ってくれた馬鹿を、あたしは守ってやれなかった。騎士(ナイト)になると決めたのに。
「空がしたように、いつかあたしもあいつのことを割り切り、一後輩として彼を見守ることができるのでしょうか。少なくとも今のあたしでは無理です。あたしはこう見えて、とても独占欲が強い」
だから発破をかけてくる玲を嫉視してしまう。
じゅーっとパックの中身を飲み終える妹は、どうすればこの感情を消化できるのかと苦笑して真衣の手から離れた。
崩れるように寝転んでしまう鈴理に目を細め、真衣はやっぱり羨ましいと感想を述べた。
自分も燃え上がるような恋をしたい。
人に合わせることが得意になってしまったせいか、感情のままに動くという行為を忘れてしまった。真衣は自分の心情を語る。
「イエスの良い子になっているのでしょうね。鈴理さんのように自分を持つって事を忘れてしまいました」
「真衣姉さんは器用ですから、すぐに思い出せますよ」
「いいえ。器用貧乏なんですよ。困りましたね。私は令嬢の肩書きは容易に背負えた代わりに、自分という大切なものを忘れてしまっているのですから」
日頃から思っていた悩むを妹にぶつけると、「姉さんでも」そんな悩みがあるんですね、初めて知りましたと鈴理。
「誰にも言ったことありませんもの」
微笑みを返す真衣は、飲み終えたパックを畳み始めた。
「鈴理さん。一つ、自信を持って良いことがあります。貴方達はとてもお似合いのカップルでした。それは私達姉妹も、あの両親でさえも覆すことのできない真実です」
真衣の言葉に鈴理が泣き笑いを零した。
「当然です」だってあたしの選んだ男ですから、妹の強気に目尻を下げて言葉を重ねた。
「そうですね。空さまは鈴理さんの選んだ男性ですよね。彼はとてもおとなしそうでしたが、鈴理さん相手にどんな獣魂を見せていたのでしょうか。……ああぁああ、そんな、鈴理さんをっ、キャーッ! そんな、キャーッ!」
「真衣姉さん。想像はつきますが、まず言っておきます。あたしは攻め女であり、押し倒す専門です!」
ポッポッと頬を紅潮させて妄想に浸っている真衣に、すぐさま鈴理が食い下がったのは言うまでもないだろう。
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