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07-02



 
(どんなに将来が輝かしくても、過程を見据えなかった。現状と将来にギャップが出てくる。常日頃から企業に対する現実と理想のギャップを語っていたのだから―――…娘の事だって分かってくれてもいいでしょう)



三女の行方を捜す真衣は歩調を速めた。
 
なんとなく鈴理がいる場所は分かっている。

 
真衣が水辺のテラスに赴くと思惑通り、鈴理はそこにいた。

夜風が吹き抜ける渡り廊下を渡った真衣は、ほとりで腰を下ろしている三女を見つめる。

彼女は裸足になって水と戯れていた。
そのため水面は波打っている。

そしてそれは夜風に吹かれて小さく波立っていた。

鈴理の脇には紙パックが数個、放置されていた。
同じパッケージのパック。表には『イチゴミルクオレ』とカタカナ表記されている。
 
「鈴理さん」

声を掛けると、力なく彼女が振り返ってきた。
 
ストローを銜えている鈴理は、ぷーっとパックを膨らませて遊んでいる。微苦笑を零し、真衣は何を飲んでいるのだと話題を切り出して隣に腰を下ろした。

見たままだと返す鈴理は、一個80円するイチゴミルクオレを飲んでいるのだと教えてくれる。

 
こればかり飲んでいる。というか業者から取り寄せたため、冷蔵庫の一つはこれで埋まっていると鈴理は語った。

もっと高価なイチゴミルクオレを飲めばよいではないか、そう言うと、これでなければ美味しくないと鈴理はパッケージに目を落とす。


「彼氏がいつもこれを飲んでいたんです。安価ですけど、彼氏はこれが凄く好きだったみたいで。食事をしないあたしにこのイチゴミルクオレをくれたから、これを飲んでいたのですが、いつの間にかクセになって」

 
なるほど。

思い出を噛み締めたいのか。
 
真衣は口に出さずそう思うと、ひとつ貰っていいかと言葉を重ねた。「沢山あるのでどうぞ」差し出してくれるパックを受け取り、二人でそれを飲む。鈴理は早くも二個目に手を伸ばしていた。

とても甘いですね」真衣の言葉に、「甘味が強いんでしょうね」と鈴理。夜風の囁きが二人の鼓膜を擽った。

ふと鈴理が口を開く。


「もしも令嬢じゃなかったら、最近そればかり考えています。令嬢じゃなかったら、普通の恋が楽しめたのでしょうか。真衣姉さん」
 

それともあたしがさっさと許婚を白紙にしなかったから……、ああそうだ。きっと早めに手を打っておくべきだった。そうすればこんなことにはならなかったのに。彼氏には辛い思いをさせてしまった。時間を戻せないだろうか。

問い掛けているようで、三女は独白をしていた。


ぼんやりと宙を見つめ、喉を鳴らしてイチゴミルクオレを飲んでいる。
 
真衣は間を置いて、「鈴理さんは羨ましいくらいに」素敵な恋をしていたんですね、と相手の頭を抱いた。

「ええ。とても」成されるがままの三女は弱弱しく笑った。
 
 

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