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06-13




「―――…ッハ、しまった。今日田中さんに送ってもらったから、帰り道が分からない!」
 
 
 
ホテル会場を後にした俺は、大変な危機に直面していた。
 
カッコつけてホテルを出たはいいけど、帰り道が分からないんだ。


なにせ、今日は鈴理先輩の送り迎えをしている運転手田中さんに送ってもらったのだから。

どうやって送ってもらったかというと、お電話して迎えに来てもらいました。
英也さんの手紙に田中さんの連絡先が書いてあったんだよ。来る場合は送ってもらえって。

お言葉に甘えてバイトが終わった後、このホテルまで来たはいいけど、帰りを考えていなかった!


「どうしよう。田中さんにまた連絡するのも気が引けるな。だからって全然分からないぞ、ここら辺の地域」
 

確か近場に駅があるって言っていたから、駅まで歩けばいいんだろうけど、駅はどっちだ。
 
ホテル前できょろきょろと左右を見渡していた俺は、目前の片側三車線道路を睨んで腕を組む。

聞けそうな通行人も見当たらないや。こりゃお手上げだね。

「コンビニに行くしかないか」

あそこなら道を聞けるだろうから。

結論を出した俺は取り敢えず歩くことにした。
歩いていれば、一件くらいコンビニに辿り着くだろう。この時代、コンビニだらけだし。
 
頭の後ろで腕を組んで、右の道を足先を向ける。
 
すっかり日の暮れた見知らぬ街中を歩くのは新鮮な気分だ。

真新しい世界が俺の視界に飛び込んできて、ちょっとした冒険をしている気分になる。見慣れないビルや建設会社前を通り過ぎた。


ふと脇に路地裏が見える。
なんとなく抜け道はないかなっと歩み寄る俺は軽く現実逃避をしているらしい。

普段だったら絶対しない行動を起こしていた。

湿った臭いが鼻に付くだけで、向こうは闇ばかりが息を潜んでいる。


微かに街のネオンがぼおっと揺らいでいる気がしたけど、見えるのはそれだけだ。
 

「んーっ」抜け道は無さそうだ、路地裏に顔を突っ込んだ俺はすぐに身を引く。


どんっと背後に衝撃が走った。
通行人にぶつかったのだと思った俺は慌てて謝罪する。同時に首に腕を絡められた。

ギョッと驚く俺を余所に、「駄目じゃないか」こういうところは一人で行くもんじゃないぞ、と注意される。

聞き覚えのある声に俺は視線を流して相手を確認。

そこにはにこっとスマイルを作っている御堂先輩の顔がっ、て、ぬぁああああ?!

 
今度こそ頓狂な声を上げて驚いてしまう。
 
なんで御堂先輩が此処にいるんっすか! ほんっと神出鬼没にも程がありますよ!

驚いたと心臓を高鳴らせている俺に、「勝手に何処かに行ったのは君だろ?」心配したと御堂先輩が頭を小突いてくる。

ううっ、すんません、そういえば何も言わず出て行きましたね。俺。
 

「で、外に出るということは帰るつもりだったのかい?」

「あ…あーっとそのつもりだったんですけど、帰り道が分からなくて」
 

手遊びしながら現状を伝えると、「それでここらを漂っていたのか」呆れられてしまった。

め、面目ないっす。
でもコンビニを見つけて帰り道を自力で見つけようとしていたんっすよ! そう訴えると「携帯は使えないのかい?」地図を出せばよかっただろ、と助言を頂いてしまう。

 
そ…、そうだった。
 
携帯という手があった。アナログ人間の頭じゃ思いつかなかったよ。俺、現代っ子じゃないかもしれない!

がーんっとショックを受ける俺を余所に、「この先は何があるんだろうな」御堂先輩が路地裏を指差した。


「少し行ってみないか?」


闇が広がる路地裏に好奇心を向け、彼女は俺の腕を取った。

え、それは別にいいっすけど、先輩は俺を連れ戻しに来たんじゃないのかな?


首をひとつ傾げ、俺は先輩と一緒に路地裏に足を踏み入れる。湿気のせいか、妙に辺りが生臭い。ゴミは散らばっているし。

なによりも視界が悪い。何か出てもおかしくない気がする。
 
 

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