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05-17



「ありがとうございます」


うそつきな俺はやっと自分の素の気持ちを相手にさらけ出すことができた。一笑を零し、御堂先輩は口を開く。

 
「君には財閥の苦労というものが分からないだろう。でも、君には君にしか分からない苦労を背負っている。バイトだってそうだ。苦労しているなら、その分誰かが労わってやらないとな。それくらいの褒美が君にあってもいいだろ?」


敵わないや、目前のプリンセスには。 
 
遠まわし遠まわし元気を出せと励ましてくれるんだからさ。

 
鈴理先輩とは別枠でちょっと困った攻め女さんだけど、先輩として、友達としては好きかもしれない。

初対面が初対面だったけど、二人のやり取りを見て動揺する俺にさり気ない優しさをくれたんだ。好感を持っ…、はぁあああ、これがなかったら素直に好感を持てるんだけどな。

こめかみを擦り、俺は御堂先輩に何をしているのか敢えて尋ねてみることにした。

にこにこと笑顔を作っている御堂先輩は、「此処に豊福の足があったからな」愛でているのだとのたまった。のたまってくれた。


そうっすか。
 
やっぱり貴方様も鈴理先輩と同類っす。変なところバッカ攻めてくる攻め女っす!

太ももを触ってくる御堂先輩に、逆セクハラだと注意を促すけど聞いちゃくれない。


「僕にも労りが必要なんだ」


なーんて言って太ももを撫で撫でお触りお触り。蘭子さんは注意してくれるどころか、「自ら男の人に触っているなんて」旦那様も奥方様も喜ばれることでしょう、と感動に浸っていた。なんでやねーん。
 

仕方がないので手を繋いでその行為を止めることにした。
 
鈴理先輩のことが脳裏にちらついたけど、自己防衛のためにこの策を取らせてもらおう。

 
おイタする手を結び、俺は車窓から外界を眺めた。
 
信号を待っている人々の多くが若人だ。
休日だからどこかに遊びに行っているのかもしれない。

通行人が横断歩道を交差している中、車は発進する。

 
後ろに流れていく景色の一部に鈴理先輩と大雅先輩を垣間見た気がした。
 
首を捻って後ろを振り返るけど、既に見えていた店やビルは後ろに流れて小さくなってしまっている。

動揺したゆえに錯覚を見たのかも。


わりと引き摺っているんだな。
二人の仲を疑っているわけじゃないんだけどさ。

よそよそしい最近の二人を目の当たりにしているから、妙に違和感と不安を覚えるんだよ。


まるで二人が俺に重大な何かを隠しているような、そんな気がして。気のせいならいいんだけど。
 

直後、繋いだ手が思い切り引かれた。

「へっ?」間の抜けた声を出す俺は、身構えていなかったせいかあっという間に真横に崩れた。

硬いとも柔らかいとも言いがたい人の太ももに膝を預けてしまう。

御堂先輩の膝に頭を預けているのだと気付き、大慌てで上体を起こした。起こそうとした。


けど御堂先輩が額を指で押してきたために起き上がれない。な、なんで、片食指で押さえられているだけなのに!
 

「額を押さえられるとバランスが上手く取れなくなるんだ、豊福。また一つ学んだな」


極上のスマイルを見せてくれる御堂先輩に寒気を覚えたのは、俺、の、気のせいじゃないような。

「あの」何をする気で? ごくりと生唾を飲む俺に、「勿論何かをする気だ」キリッと御堂先輩が凛々しい顔を作った。キメ顔するところじゃないっす、そこ! 今のがカッコイイ台詞だと思ったら大間違いっすよ!
 

「では具体的な行動を示そう。恋敵がいない今が攻めるチャンスだ」


差を詰めるためにも攻めると御堂先輩が俺を見下ろしてきた。
 

「家に着くまでの間。スキンシップを楽しもうな」

「え、えぇええ遠慮させて下さいっす! ぎゃっ、何処に手を入れてっ! エッチィイイ!」


俺の悲鳴なんてそっちのけで御堂先輩が好き放題お触りお触り。
 
もう何処を触っているのか言いたくもないんで省略させてもらうことにする。一々書いていたらキリがない。

全力で止めているのにもかかわらず、次第次第に肌蹴ていく制服。それをご機嫌に見やりながら鼻歌を歌う御堂先輩。


と、彼女がむむっと眉根を寄せてきた。



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