05-12 わりと平常心を保ったまま御堂先輩は苦笑を零して、「見合いをすることになったんだ」それで機嫌が悪いんだと糸も簡単に理由を教えてくれる。 見合い。 目を丸くする俺に「安心しろ」好きなのは君だから、と御堂先輩が一笑してくるけど、そういう問題じゃない。高校生なのに見合いをするってのに俺は驚いている。 まあ、先輩は令嬢だしな。財閥同士で許婚を取り結ぶってのもあるくらいだし、今更驚く必要もないんだろうけど。 相手はどんな人なのかと当たり障りないことを聞いてみる。 「知らん」一切不明なのだと御堂先輩。彼女が興味を持っていないからじゃなく両親さえ分からないのだと教えてくれた。 「見合いを決めたのは僕の両親じゃない。僕の祖父なんだ。ちなみに父方な」 「おじいさんっすか」 「ああ。あのクソジジイが勝手にな」 どうやら御堂先輩にとって、自分のおじいさんはあまり好く思っていない人らしい。表情の険しさが濃くなっている。 これ以上は聞かない方がいいような気がしたんだけど、御堂先輩の方から語り部として立つ。 「僕の男嫌いの根源は」祖父が原因なんだ、と。 「祖父にとって僕は、望まれて生まれた孫じゃなかった」 対向車線向こうでバイクの過ぎ去る喧(かまびす)しいエンジン音が聞こえたのに、それさえ無効化にしてしまう静かな空気が俺達の間に下りていた。 すぐ後ろの歩道からチャリの過ぎ去る気配がした。 それを合図に俺は団子の無くなった串を容器に戻し、御堂先輩の食べ終わった串も同じ場所に戻す。 俺が口を閉ざしているのは困っているからじゃなく、御堂先輩の話に耳を傾けるため。 彼女も察しているのだろう。 少しの間、口を閉ざした後、語り部に戻った。 「御堂家は代々女系なんだ。あまり男に恵まれない一族で、生まれるのは女ばかり。 だから祖父が男として生まれた日は、大層喜ばれたそうだ。それは祖父の実子である父も同じ。二世に渡って息子が生まれるなんて御堂家では殆ど無かったんだ。周囲は期待した。二世代息子なら、三世代息子になる可能性もあるんじゃないかと」 けれど期待された三世は女。 父は性別関係なく僕の誕生を祝福したが、男としてちやほや甘やかされて育てられた祖父は快く思っていなかった。 孫が娘だったことに憤慨したそうだ。 まさしく祖父の中には男尊女卑の思考が根付いていた。 財閥の先導に立つのは男でなくてはいけない。 男が偉くて当たり前なんて思考を未だに持っているんだ。 そのせいで母は随分祖父から責められたそうだ。母は受け流して僕に愛情を注いでくれたし、父も娘でよかったと言ってくれたが、祖父だけは違った。 僕は覚えている。 幼少に祖父から言われた言葉を。 なんでお前は女なんだ。望んでなどいなかった、と蔑まれた言葉の刃を。 女だったから駄目? では僕が男だったら祖父は祝福してくれたと? 成長するに連れて僕は祖父の頭から女を見下げる男尊女卑の思考に嫌悪感を抱くようになった。 しかも祖父は16で僕を結婚させるよう父に命じていた。結婚というより、妊娠に期待を寄せていたんだ。 母が妊娠するのはもう無理だと思ったんだろう。 奴はひ孫に望みを託すようになったんだ。 とにかく自分が生きているうちに、男系の血を強めたい。 その願いから、早く結婚しろと命じるようになった。両親は僕のペースでいいって言ってくれているが、祖父は誰でもいいから男を作って子供を作れと煩かった。 結果、僕は男嫌いになった。 男尊女卑の世界観が疎ましかった。 男がすべての世界が腹立たしかった。 女を見下げる奴の眼に反吐が出そうだった。 いつしか僕は一つの誓いを立てるようになった。 代々女系の強い御堂家を僕が継いでやる。女系でも成り立つ財閥にしてやる、と。 祖父は僕に財閥を継がせるつもりはなく、あくまで男に継がせるつもりなんだ。そんなに女系が嫌なのかと鼻で笑ってしまうほど。 [*前へ][次へ#] [戻る] |