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財閥交流会のお誘い

 
□ ■ □
 

【昼休みの学食堂にて】

  

「うっわぁ、どうしよう。慎重に決めないと、こういうのってすぐになくなっちゃうんだよな」


 
二兎を追う者は一兎をも得ずってヤツだ。

まずは優先順位を決めて、確実に手にしたい物をピックアップしないと。

あれもこれも迷っていたら、何も手にできない。


折角の機会なんだから、なるべく多くの物を手にしたいけれど。
 
俺はボールペンを片手にジーッと紙切れと睨めっこ。
 
眉根を寄せて視線を配っていると、「空」何しているのだと向かい側から声を掛けられた。

顔を上げれば注文した定食を片手に席に着く鈴理先輩の姿。

「チラシか?」まどろっこしいもの読んでるな、彼女の隣に座る大雅先輩が揶揄してくる。

ちょ、まどろっこしいってなんっすか、チラシは生活の情報が一杯詰まってるっていうのに! そりゃあ御曹司お嬢様方には関係のない代物でしょうけど。
 

……てか、ほんっと大雅先輩、毎日のように俺達とメシ取るようになったな。

当たり前のように俺達の席に着いちゃって。
 

鈴理先輩も諦めたのか、肩を竦めて椅子に腰を下ろしていた。

何度言ってもこっちに来るもんな。

ぜぇーったい友達少ないんだろうな、大雅先輩。性格に難があるし。

別に嫌ってわけじゃないけどさ。

大雅先輩が来ると、自然と宇津木先輩や川島先輩もやって来るんだよな。

後で二人もやって来るんじゃないだろうか? 後輩の俺としては、先輩バッカでなんだか居心地が悪いんだけど…、今度フライト兄弟を誘ってみようかな。

そんなことを片隅で考えながら、俺はチラシを四つ折にした。
 

改めて何をしていたんだと質問してくる彼女に、「タイムセール告知を見ていたんっす」俺はスーパーのチラシをピラピラと翳す。

これまた箱入り息子さんに娘さんはタイムセールってなんだって顔をしてきた。

ええいド畜生、お金持ちのボンボンめ。

金銭なんて考えず物を買ってるでしょ! こっちたらぁびた一文無駄にできないっていうのに!


……おっと、しまった。

節約心がついつい剥き出しになるところだった。

金持ちさんは金持ちさんで大変なんだってことを忘れるな、俺。
 
 
「タイムセールっていうのは、区切った時間内に行われるセールのことっす。その時間にだけ、商品が値下げされて販売されるんっすよ」


例えばほら、トイレットペーパーが68円。12個入りで68円! 激オトクっすよ!

他にも生鮮食品とか、日用品とか、色んなものが値下げされるんっす。

このスーパーでは月一でタイムセールをするんっすけど、毎度の如く豊福家はこれを狙ってるんっす。

だってこれを逃せば、また翌月まで待たないといけないんっすから。

翌月まで他のスーパーのタイムセールで凌がないといけないんで。

此処のスーパーは特に大安売りしてくれるんで、月一タイムセールを楽しみにしてるんっす。

だけど今月はちょっとお金が厳しいんで、欲しい物を定めておこうと思いまして。

それがなくてもタイムセールは主婦戦争っすからね、心しておかないと戦利品なしになっちまうっす。
 

「千円以内でどれだけ多くの食材・日用品が買えるか、今日の俺の手に掛かってるんっす。一週間をそれで賄いといけないんで、これまたプレッシャーなところなんっすけど」

「……、な、なんか大変なんだな豊福も。なあ、鈴理」

「……、空は家庭的な男だからな。それより空、昼食を取らないと時間がなくなるぞ」


お弁当は? あたしのものと半分にしよう。

彼女は笑顔を向けてきた。


鈴理先輩は俺のお弁当事情を知って、よくお弁当を作ってきてくれるんだけど、それはいつもじゃない。

習い事やらなんやらで作って来れない日も当然ある。

その時は俺の悲惨なお弁当と、自分の昼食を半分ずつにして一緒にご飯を食べているんだけど。


彼女の問い掛けに、たっぷりと俺は間を置いて「ダイエット中っす」と笑顔を返した。
 

だから遠慮せず食べて欲しい、言った直後に腹の虫が鳴って俺は居た堪れなくなった。

ちょっとは空気を読んでくれよな、俺の腹。


向かい側で先輩方が、まさかと顔を引き攣らせてるじゃないか。

突き刺さる視線に観念した俺は、「お弁当にできるものがなくて」とおずおず家庭事情を暴露。



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あきゅろす。
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