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05-05

 
 
「中央区に買出しに行くって言ったよね? 西区から中央区までどうやって行くの? ホーリードラゴンで飛んで行くにも半日以上は掛かるでしょ。もしかして向こうに泊まり?」

「んにゃ日帰りだ。菜月は“テレポーテーション塔”を知らなかったか?」

 「テレポーテーション塔?」キョトンとしている菜月のために螺月は説明を始める。
 五つのブロックに分かれている聖界の各地にテレポーテーション塔と呼ばれる塔が存在する。その塔は各ブロックのエリアに繋がっており、好きなブロックに瞬間移動できるのだ。仕事等で時間が押している場合、歩いて又はホーリードラゴンで移動するには時間が掛かる。そのため瞬時に移動できるテレポーテーション塔というものが存在するのだ。

 買出しに行く際も、それを使って中央区に行く予定だと螺月は菜月に教える。 

 「そういえば昔一度だけ使ったな」それが“聖の罰”を受けるために使ったとは敢えて口にせず、菜月は使った思い出を引きずり出す。確か時計塔の隣にあったよううな。わりと小さなレンガ造りの建物だったってことは憶えている。あれを使って中央区に飛ぶのか。
 
 懐古をしていると向こうから足音が聞こえた。菜月は慌ててカゲっぴに影に入るよう指示する。
 
 足音の正体は姉だった。早々と仮部署から帰って来たようだ。
 「どうだった?」螺月の問い掛けに、「今から隊長達が来るって」柚蘭は腕を組んで吐息をついた。簡単には許可を出してくれなかったらしい。そりゃそうだろうな、と菜月は思う。
 なにせ自分は罪人で異例子、街に行くということは民間人と接触するということ。間接的な接触だとしても、向こうは懸念を抱くだろう。これはおとなしく留守番していた方が良さそうだ。
 
 「気持ちだけ受け取っておくよ」失笑を零しつつ、菜月は留守番していることを兄姉に言うが、直後、硬直。
 恐ろしいほど不気味な笑みを浮かべている姉の姿を直視してしまったのだ。「柚蘭のやる気スイッチが入っちまった」頼もしい限りだと螺月は得意気な顔を作っているが、これは一悶着ありそうな予感が。
 
 
  
 
「―――…鬼夜柚蘭。立場と先方のことを考えてみろ。
異例子は監視される立場、安易な気持ちで外出など許可が下りるわけないだろう。一応、千羽が菊代さまに掛け合ってはいるが、異例子は何者かに連れ去られそうにもなったのだ。99%許可など下りる筈がない。第一異例子を買い物に連れて行く、しかも聖界の国都に連れて行くなど言語道断だ。異例子は留守番させろ」
 
 
「あら、菜月を中央区に連れて行っちゃいけないのかしら? 確かに菜月は監視される立場。
先方、不審な輩にも襲われた。けれど、菜月が聖界に連れて来られて二ヶ月よ。この子、あなた方聖保安部隊と一騒動は起こしたものの、それ以上の騒動は起こしてないわ。誘拐事件だって菜月本意じゃない。自由拘束という罰を負っているけれど、それはあくまで監視という罰でのこと。聖保安部隊の皆様が一緒にお買い物に来てくれれば良い話じゃない。菜月ひとりで買い物させるわけじゃないんだし、私達もこの子の面倒をしっかり看るわ」

 
「そうは言ってもだ。もしものことがあったらどうする」

「もしも、と仰いますと例えば? まさか、菜月が異例子だからって理由だけで通すつもりなら、私、納得しないわ。明確な理由を仰って、郡是隊長」
 
  
 うーっわ、すっごいことになってる。一悶着どころじゃない。
  
 リビングキッチンのテーブルに着いている菜月は、頭上で飛び交っている言の葉たちに冷汗を掻いていた。
 チラッと視線を上げれば、満面の笑顔を作る柚蘭と、呆れ果てている郡是隊長の姿。郡是は腕組みをして、眉間の皺を濃くするばかり。時折溜息も少々。心中察しはする。
 平然と見守っているのは螺月、頭の後ろで手を組んで「いいじゃねえか」俺等が面倒看るって言ってんだし、と肩を竦めていた。早く出掛けたいのが本音なのだろう。欠伸を噛み締める姿もちょいちょい見られる。

 はぁーっと深い溜息をつく郡是は、重々しく口を開いた。
 



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あきゅろす。
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