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08-07


 

「…ネイリー」


 風花は吸血鬼にそっと声を掛ける。名を呼ぶ以外、なんと声を掛ければ良いか分からなかった。


「はぁー…お手上げだよ。こればっかりは」

   
 これも暗い情報だとネイリーはこめかみを擦った。
 
 親友の生存率がまた下がった。真偽を確かめるまでは安易に死を受け入れないようにしているが、突きつけられる情報には参ってしまう。
 親友は聖界の何処かで生きている、そうは信じているが、もしも死亡していたら自分はどう彼…じゃない彼女の死を受け入れるのだろうか。正直、心積もりは出来ていない。
 
 もう懲り懲りなのだ。大切な者を喪う悲しい気持ちに襲われるのは。

 最愛の妹を喪った時、自分はどうしようもない無力感に襲われた。張り詰めた糸が切れてしまったように全身の力が抜け、数日間、何もする気が起きなくなったあの日々。懸命に人前では明るく振舞っていたが、自分の足場という感情は脆く今にも崩れそうだった。

 それを支えてくれたのはジェラール・アニエスだった。

 妹が病魔に魘されている時も、病死してしまった時も、死んだ筈の妹が目の前に現れた時も、彼女は自分を支えてくれた。優しくさり気なく。
 
 ひたひたと絶望感が襲い掛かってくるが、こんなところで挫けても仕方が無い。ジェラールの死の真偽を確かめるにも、友の菜月と再会するためにも、此処で心折れるわけにはいかないのだ。
 

「しょーがないからあんたが泣く時は胸貸してやってもいいよ」
 
 
 ぶっきら棒な声にネイリーの思考は現実に引き戻される。
 「サービスだかんね」フンと鼻を鳴らし、腕を組んで座席に深く座る風花。照れ隠しする銀色の悪魔に笑声を漏らしてしまった。彼女なりの励ましに心なしか胸が軽くなる。

 親友の死に不安を募らせ、残酷な現実ばかりを突きつけてくる世界だけれど、こうして誰かが自分を助けてくれようとしてくれる温かで美しい現実がある。それもまた一つの世界だ。

 ネイリーはフッと笑みを浮かべると、前髪をサラッと靡かせた。


「では、その時はキュッセン(キス)でも」

「調子に乗るな」

 
 それだけはごめんだと風花は猫目に宿らせる眼光を鋭くした。

『バカがいるんだじぇ』

 傍で見ていたカゲぽんは限りなく冷静で呆れに近い感情を抱いていた。もしかしたら三人の中で実は一番、大人なのかもしれない。
 カゲぽんは本当にこの面子で聖界にいけるのか、とてもとても不安だった。相方のカゲっぴに会いたい反面、我の強い悪女とナルシスト阿呆吸血鬼という頼りない大人達にカゲぽんはちょっぴり泣きたくなった。
  



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