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06-11



 あかりとは彼女の通っている学校の正門前で待ち合わせしている。
 土曜日ならば午前中で授業が終わるだろうから、12時半に待ち合わせしよう。そう約束を交わした。風花はそこまでネイリーの車で送ってもらう予定だ。
 
 「支度はできたかね?」泊まり支度を済ませたネイリーは風花に尋ねる。

 バッチリだと風花は頷き、彼と共に車に乗り込んだ。助手席に座ってシートベルトをしっかりと装着する。エンジンを掛けながら吸血鬼は今日を楽しんでおいでと目尻を下げた。少しは息抜きをしなければ、本当の強者は休憩という時間をしっかり作るものだと彼は語る。
 「あんたも息抜きしろよ」風花は微苦笑した。自分は泊まりという遊びだが、ネイリーは仕事で泊まりに出掛ける。今日という時間の過ごし方が違う。仕事の根を詰めて息抜きができないのではないだろうか。しかしネイリーは大丈夫だと前髪を弄くった。

「実は今日の仕事先に可憐な雨女くんが来るらしいのだよ。いやそれが楽しみで楽しみで。おっと、フロイラインも美人だぞ。もし僕が恋しくなったらいつだって携帯に電話を掛けておくれ! そうだ、寂しくないようにキュッセン(キス)を贈ろうか!」

「だーれが吸血鬼のキスなんているか! ほら、出して出して!」
 
 遅刻しちまうから。風花の訴えに、「照れ屋さんだな」とネイリーはナルシストポーズ。

「分かるぞ。僕は誰よりも優れた美を持っているからな! ふっ、男も思わず見惚れてしまうような美貌を持っている。僕は僕に惚れてしまいそうだ。トキメキを覚えるよ」

「喧しい。さっさと出せっての!」


「何? 素敵でカッコイイ? フロイライン、そこまで僕のことを…なんて健気なんだ! 愛おしいぞ!」


 どういう耳してるのだろうか、この吸血鬼。実は毎日をこの調子で息抜きしているのではないだろうか。
 片眉をつり上げる風花は取り敢えずネイリーの頭をぶって車を出すように強要。軽く頭部を擦りながらも、「可憐だ!」ネイリーは風花を抱き締める。くっきりとこめかみに青筋を立てる風花はフルフルと握り拳を作った。誰の許可得て自分を抱き締めているのだ、この吸血鬼。

「あ・た・しに触れて良いのは彼氏だけだよ! このスカポンターン!」

 次の瞬間、車内に物理的な攻撃音と悲鳴が聞こえた。その悲鳴は男性のものだったとか無かったとか。
 
 
 
 待ち合わせている学校正門前で車を停めると、既に学校は終わっているのか正門から生徒達が次から次に下校をしている。 
 皆が皆、まったく同じ制服を身に纏っているため、待ち合わせている少女を探し出すのにとても苦労しそうだ。自分のように人目の引く髪を持っていれば良いのだが。

 「擦れ違いにならなきゃいいけど」風花はシートベルトを外しながら唇を尖らせた。
 「もう来てるようだぞ」擦れ違いの心配は無い。運転席に腰掛けているネイリーは一笑し、正門からやや離れた塀付近を指差した。
 
 風花が彼の指す向こうを見やると、そこには自分のことを待っているであろう少女の姿。それに少女の友達。
 いつも自分と仲良くしてくれるメンバーが塀に寄り掛かりながら和気藹々と談笑し、自分のことを待っている。てっきり少女だけだと思っていたのだが、まさか友達まで待ってくれているなんて。

 瞠目する風花を余所に友達と駄弁っていたあかりが此方を見てきた。焦点が留まる。自分達に気付いたのだろう。笑顔で手を振り、駆け寄って来た。

 風花は助手席の扉を開けて車から降りた。
 「ドタキャンされたかと思いましたよ」挨拶代わりに憎まれ口に風花はぶぅっと脹れてそんなことしないと鼻を鳴らした。悪魔は交わした約束を守る義理堅い奴なのだと反論。分かっているとばかりにあかりは笑い飛ばす。遅れて手毬、冬斗、雪之介も此方にやって来た。

 「よっ」風花はそれぞれに挨拶。
 あかりと一緒にいるなんて驚きだと正直な感想を述べれば、手毬が遊ぶ約束をしているのだと綻んだ。
 

「あかりに誘われたの。一緒に遊ぼうって。今日は風花先輩も来るからって言われたから」

 
 手毬の説明に風花は目をパチクリとさせていたが、あかりが自分のために友達を呼んでくれたのだと察した。そして呼ばれた者達も自分を気遣って来てくれたのだ。
 
 気遣って? いやきっと彼等は自分の意思で、自分の傍にいてくれようとしている。
 それは気遣いとか、同情とか、憂慮からではなく、単に自分と時間を過ごしたいから。彼等のさり気ない優しさが胸打った。見る見る笑顔を零す風花は四人に飛びついた。子供達をぎゅうぎゅうに抱き締め「サンキュな」と礼を告げる。

 目立つからと四人に指摘、笑われてしまうが風花は構わなかった。彼等の優しさが自分の胸の中で凝り固まっていた何かを解してくれる。




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あきゅろす。
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