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08-13



 目に飛び込んだのは夜空。真下にはアルプス山脈麓では見られない樹海。木々の塊が地上を埋め尽くしている。
 空間と空間が捻れて繋がっていたため、入り口は地上でも出口は宙だったようだ。青褪める風花とネイリーはぎこちなく目を合わせる。確実に自分達は今、落ちている。重力に従って見る見る加速し落ちている。

 風圧に目を細め、風花はどうにかしなければと持っていた大鎌を握り締めた。
 
 
『ううっ、おてて限界ッ…んぎゃああああ〜! あくじょー!』

「カゲぽん?!」

 
 落ちるスピードに12cmの体は耐えられなかったらしい。
 
 風花の足にしがみ付いていたカゲぽんは舞うように宙へと放り出された。
 「カゲぽん!」手を伸ばすが体重の重い自分達の方が落ちる速度速く、体重の軽いカゲぽんはギャンギャン喚き泣きそうな声で風花の名を呼びながら、小鬼の小さな体は自分達とは別の方角に飛んで行ってしまう。

 そんな…、目を見開く風花は次の瞬間、木の葉の塊に突入する。
 

 バサバサ―。
 木枝の折れる音。葉の擦れる音。木枝に肌を引っ掛ける度、イタッと悲鳴を上げる風花は大鎌を持ったまま地上へに尻餅ついた。「ふぎゃ!」下から悲鳴が上がったが、風花は気付くことなく打ちつけた腕や足、傷付いた肌を擦りながらもカゲぽんの身を案ずる。
 
 どうしよう。カゲぽんが飛んで行ってしまった。直ぐに見つけなければ…、て、それにしても妙に地面が柔らかいような。おかげで尻餅ついてもさほど痛い目に遭わなかったのだが。

 それにここら一帯は明るいような。不気味で薄暗い樹海の中に、まるで焚き火が点っているような…いや点っている。

 目をパチクリして風花は焚き火と、その向こうにいる人物に目を向ける。
 風花の出現に軽く目を見開いている青年。パキッと小枝を折ったものの、視線は自分から一切外れない。アメシスト色の髪に群青の瞳をこちらに向け、何者だとばかりにマジマジと自分を見てくる青年の左頬にはスペードを模ったような刺青が彫ってある。
 
 何処かで見たような刺青だと首を傾げていると下から呻き声。

 「いつまで乗ってるんですか。重いんですけど」文句垂れてくる人物を見た瞬間、風花はゲッと声音を上げた。
 自分の下敷きになっているのは以前、自分をパライゾ軍に勧誘してきた胡散臭い笑顔を持つ、でも超美青年。竜夜鉄陽だった。人間の姿をしているが、こいつはまごうことなき天使。

 また厄介な奴と再会しちまった。

 やっばぁ…と思いながら風花は鉄陽の上から退くと素早く大鎌を拾い上げ、頭を下げる。


「ども、お邪魔しました」


 そそくさと逃げるが、「謝罪なしですか!」ツッコミの直後「アー!」と声音。


「貴方は北風の悪魔さんじゃないですか! 林道風花さんでしょ!」


 腰を擦りながら上体を起こした鉄陽は風花の姿に声音を張る。風花は笑顔で振り返り、「人違いです」と手を振る。


「わたくしの名前、リンカイフカコと申しますんで。おほほっ、それでは失礼」

「あ、それはそれはごめんなさい。あまりにも北風さんに似てるんで…じゃないですよ! 騙されませんって!」
 

 「チッ、ばれたか」風花は盛大な舌打ちを鳴らす。
 
 しかし開き直り、あんたの相手をしてる場合じゃないと鉄陽を指差し、まずはネイリーを探さなければと周囲を見渡す。

「フロイライン!」

 向こうからネイリーの声が聞こえた。良かった、吸血鬼は無事なようだ。
 頭に付いた葉や枝を払いながら歩み寄って来るネイリーは酷い目に遭ったと愚痴を零す。風花は吸血に駆け寄り、カゲぽんが飛んで行ってしまったのだと事情を説明した。血相を変えるネイリーは急いで捜そうと踵返そうとする。

 が、鉄陽の存在に気付き、眉根を潜めた。




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