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08-14



 ネイリーの最愛の妹、フィンランディア・クリユンフは他界しているのだが、長い月日を経て再会を果たしている。そう彼の妹は鉄陽と共に魔聖界を揺るがしている少数反乱軍・パライゾ軍に身を置いているのだ。
 その関係者が目前にいる。彼にとって心地の良いものではないだろう。
 
 風花はネイリーを気遣い、直ぐに行こうと声を掛ける。
 だがそれを掻き消すように能天気な声を出して鉄陽が吸血鬼を指差した。

「フィンランディアのお兄さんじゃないですか。おやおや、またこんなところで妙ところで再会をしましたね。雅陽、フィンランディアのお兄さんですよ。お兄さん。いっつも激甘なトークの中心にいる御兄妹さんです。あ、こちら、我等がパライゾ軍元帥の雅陽です」
 
 少し癖のある方ですけど頼れる人なんですよ、にへらへらと相変わらず胡散臭い笑みを浮かべて鉄陽はアメシスト色の髪を持つ青年を紹介する。
 風花は目を削いだ。あの男がパライゾ軍の親玉。魔聖界に懸念さえ抱かせる少数反乱軍の頭。観察してみるが、妙に冷静な男だ。敵か味方か分からない輩が目前にいるのに腰が据わっている。射るような眼は自分達の出方を窺っているようにさえ思えた。
 
 パキッ。雅陽は小枝を折って焚き火にそれを放り込むと、膝を立てその上で頬杖。左右に目を動かした。 


「この場に悪魔と吸血鬼、天使が複数…10はいるな。魔力の高さと数からして聖斥侯隊か、もしくは聖保安部隊だな。少し先に影鬼がいやがる。まだガキか。お前等、厄介事を運んできやがったな」


 的確に周囲の人数と種族を言い当てる雅陽に風花は息を呑んだ。

 こいつ、かなり腕が立つ。魔力を感じるだけでこんなにも情報を読み取れるなんて。
 
 「あーあ。面倒なことにこっちに来るな」顔を動かし、やれやれと溜息つく雅陽に、風花は恐る恐る彼の見る方角に視線を向ける。そこには自分達と共に空間に吸い込まれてしまった聖保安部隊と聖斥侯隊。既に合流し、自分達を捜していたようだ。
 自分達の姿を捉えた芹副隊長は今にも斬りかかってきそうだったが、またもや明星隊長に制されていた。どうやら芹は血の気の多い女性らしい。勇敢というか熱血というか…、多感な女性だと見ていてよく分かる。上司に止められ不満そうな顔を作っていた。
 
 各々視線は風花とネイリーに注がれていたがふと八剣が視線を逸らし、雅陽と鉄陽の姿を捉えた瞬間、「竜夜の元長候補」表情が引き攣る。すると次ぎ次ぎにどよめきの声が上がった。
 どうやら二人は聖界人にとって超有名人のようだ。慄く様子が窺える。

 チャンスだ、風花はニヤリと悪魔らしい笑みを浮かべ、ワザとらしく雅陽に敬礼した。
 

「それではパライゾ軍元帥雅陽殿。後のことは鉄陽殿と宜しくお願いします。新人の風花、同じく新人のネイリーとこれからパトロールに行ってきますんで!」

「は?」

「え?」

 
 その時のパライゾ軍はたいそう間の抜けた顔だったが、風花は笑ったまま言葉を続ける。


「あらやだぁ。もうお忘れになって。さっきパトロールしてこいって命令を下したじゃないですか。仲間にしてやってもいけど、下っ端の仕事をさせるって。だから下っ端としてお仕事頑張ってきます! さ、ネイリー。行こう」

「う、ウム? 僕等、いつからパライゾ軍になったんだい?」
 
 
 状況が呑み込めず目を白黒させるネイリーに風花はいいからいいから、とニコニコしながら吸血鬼の腕を引く。

 ぽかんとしているパライゾ軍に振り返り、風花は「よろぴく!」ひらひら手を振ってBダッシュ。吸血鬼と共に戦闘から逃げ出した。
 そう、風花は戦闘のすべてをパライゾ軍に押し付けたのだ。パライゾ軍は弱くないだろうし、聖斥侯隊達にとってもパライゾ軍はお尋ね者。きっとやり合ってくれることだろう。

 結論から言えばそれは厄介事が同時に二つも潰れてくれる。嗚呼、一石二鳥ではないか!

 風花は後のことをすべてパライゾ軍に任せ(正確には押し付け)、さっさと戦闘から逃げ出した。一刻も早くカゲぽんを捜さなければ。
 



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あきゅろす。
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