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17-19



 砂月は二人とはお知り合いなのかと質問してくる。
 二人から返答を貰う前に、「もしかして」異例子が魂を売った悪魔さんってお姉さんのこと? と質問を重ねてきた。若干悪評が入っているものの、間違ったことではないため風花は肯定する。自分と異例子は繋がりを持っていた仲だと。

 しかし何故そのような質問をしてくるのか? 幼子に尋ねると、「うんっとですね」会ったことあるからと小声で返した。
 曰く砂月の兄貴と柚蘭、螺月は友達らしい。だから二人伝いで異例子に会ったことがあると教えてくれる。ちゃんと話したことはないらしい。異例子が怖くて話せなかったのだと砂月は二人に吐露した。なるほど、異例子が聖界の嫌われ者というのも伊達じゃないようだ。こんな幼い子供にまで嫌われているとは。


「あのですね。僕、螺月さまと柚蘭さまのことが大好きなんです」


 砂月は異例子の兄姉に好感を持っていることを口にし、二人からよく遊んでもらっていたのだとポツポツ呟いた。兄と共に自分を相手してくれる大好きなお兄さん、お姉さんだから、いつまでも一緒にいたいと思っている。

 だけど最近、二人が相手をしてくれなくなった。原因は異例子が聖界に戻ってきたから。異例子は二人の弟、それは知っていたのだけれど全然構ってくれなくなったことに寂しさを覚えた。自分と遊んでくれないのは異例子のせい。だったら帰ってきて欲しくなかった。
 しかも異例子を怖がったために大好きな兄には怒られ、二人から注意されてしまった。すごく悔しくてこんなことを思ってしまったのだという。こんなことを神様に願ってしまったのだという。

 異例子なんて聖界から消えてしまえ、と。
 異例子を柚蘭さまと螺月さまの前から消してくれますように、と。

 するとどうだろう、神様は本当にお願いを聞いてくれたではないか!
 けれど自分の願いによって大好きな人達が傷付いてしまう。異例子が西プリズンに、そしてアウトロー・プリズンに拘束されると知るや否や、大好きな人達が泣いてしまった。遊んでくれるどころの話ではない。家族をバラバラにさせてしまった上に、大好きな人達は不幸になってしまったのだと砂月は鼻を啜る。
 「僕、ただ遊んで貰いたかっただけなんです」それにやっぱり異例子は怖くって…、異例子を消してくださいと神様にお願いしてしまった。砂月は口をへの字に曲げる。
   
「僕、兄上から聞いたんです。異例子と螺月さま、柚蘭さまはずーっと昔、それこそ僕が生まれる前に家族がバラバラになってしまったんだって。お二人が努力してやっと一緒に暮らせるようになったって」

 どうして異例子と一緒に暮らしたいんだろう?
 そう思ったんですけど、でももし僕が異例子とおんなじように家族バラバラになって、やっとのことで兄上や父母上と一緒に暮らせるようになったらとても嬉しいと思うんです。家族みんな一緒って嬉しいですもん。
 
 それに兄上は仰りました。
 「お前の環境は当たり前じゃない」仲のいい家族もあれば、不仲の家族もある。一緒に暮らせる家族もいれば、暮らせない家族もいる。お前は幸せだって。ちっとも意味が分かりませんでした。だけどお二方が悲しまれている姿を見て、ああ僕って幸せだったんだって思ったんです。

 兄上は異例子を怖がりませんでした。どうして怖がらないのかな? って思ったんですけど、きっと異例子って僕が思っているほど怖い人じゃないんだって思ったんです。もし怖い人なら螺月さまや柚蘭さまは一緒に暮らしたいと思わないし、兄上だって仲良く接そうとはしなかったと思うんです。悪魔のお姉さんだって悪魔だけど僕を助けてくれましたし、異例子もきっと悪い人じゃないんだって思いました。
 
 なのに僕…。
 僕のお願いのせいで大好きな人達の家族がバラバラになってしまいました。とてもとても酷いことを思ってしまったんです。

「僕、今…、千羽鶴を作っているんです。これ人間界願掛けなんですって」
 
 砂月は自分の持っていた鞄をひっくり返し、作りかけの鶴を風花たちに見せる。目測からして二十羽はいるだろう。

「まだお家にもあるんですよ」

 作りかけの鶴を拾い、子供は唇を尖らせる。千羽作ったらきっと神様はお願いを聞いてくれる。だから一生懸命、千羽鶴を折ってお願いするんだと砂月は力説した。異例子が儀式を受けませんように、家族がバラバラになりませんように、と。

 礼拝堂でお祈りだってするつもりだと砂月は肩を落とし、自分のお願いの取り消しを望んだ。




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