[携帯モード] [URL送信]
17-18




「フロイライン…、これは」

「柚蘭の奴。あたし達を逃がそうとしてくれてるのかよっ…、あの馬鹿」

 
 風花は手紙を握り締めた。
 
 自分達をこれ以上、聖界の紛争に巻き込まないため、柚蘭は逃げ道を差し伸べてくれた。
 だが柚蘭はどうする気なのだ。文面には何も書かれていないが、彼女は家族を強く想っている。末弟の儀式成功と弟の安否不明を同時に受け、平常心でいられるかどうか、それさえ怪しいものだ。

 苦言する風花にネイリーも同調する。
 「想いは力となる」だが時として暴走を生み出す可能性もある。柚蘭が気掛かりだと、そして安否不明の螺月が気掛かりだとネイリーは眉根を寄せる。身内を喪ったことがあるからこそ、ネイリーは兄姉を懸念するのだ。

 「どうする?」悪魔の問い掛けに、「愚問ではないかね?」吸血鬼は不敵な笑みを浮かべる。
 まったくだと風花はその手紙を四つに破いた。さらに八つに破くと倉庫に舞わせる。手紙から紙くずと化した手紙は吹き込む風に揺れ、好きな場所へと飛んでいってしまう。「まだ何も終わってない」風花は強く言い放つ。
 例え儀式が成功したとしても、その真実を見出すまで、見出しきるまで終わりなどなく、聖界を離れる理由もないのだ。

 だが断言するその声音が震えてしまうのは、自分の弱さからか?
 
 まだ信じない。何も終わっていない。友人恋人の死など信じない。繰り返す風花は感情が昂ぶってしまい、ついくしゃりと顔を歪めてしまう。
 ネイリーは目を細め悪魔の心境を悟ると、何も言わず手を伸ばして彼女の身を抱擁する。大丈夫だと気丈を張る悪魔に、そうだなと相槌を打ち、フロイラインは強い女性だから、ネイリーは微苦笑を漏らして腕の力を強くした。自分が恋した女性なのだ、彼女は強い。十二分に自分はそれを知っている。
 「僕の方が弱いようだな」だからこうして人のぬくもりを求めてしまうのだと行為の弁解を口にする。頭を撫でてやると、「チックショウ」こういう時だけいい男になってるんじゃないよ、悪魔が拳で胸部を叩いてきた。それは光栄な言葉だとネイリーは一笑する。

「わぁあ」
 
 と、それまで傍観していた砂月が声を上げた。 
 ハタッと我に返って子供の方を見ると、両手で目を隠している砂月の姿。けれど指の間から光景をチラ見していたりいなかったり。カゲぽんも真似っこして指の間から光景を覗き込んでいたりいなかったり。
 
 「この後、ちゅーするんですね」と茶々を入れられ、風花は見る見る血の気を引いていく。
 一方のネイリーは「キュッセンをしたいかね!」では喜んで、と行動を起こすのだが、風花の肘鉄砲を食らい撃沈。腕から脱した風花は腕を組んで、「あたしとキスするのは」菜月とだけだよ、ぶう垂れた返事をする。
 

「砂月。あんた、へーんな勘違いするんじゃないよ。あたしとネイリーは友達さ友達! あたしのダーリンは菜月だし、ネイリーのハニーはジェラールって決まってるんだから」

「ま、待っておくれフロイライン。僕とジェラールは親友だぞ親友。決してそういう関係ではないのだよ!」


 だって同性同士。
 いくらジェラールが女性らしく振舞ったところで、真っ裸になればあらやだぁ、自分と同じ男だと分かるということでして。とにもかくにも親友以上の関係を築き上げてはならないのですよ、はい。
 ネイリーは想像力をフルに働かせてしまい、おぞましい光景を妄想してしまう。ナニを妄想したかはご想像にお任せしておくことにしておこう。

「えー、デキていないんですか?」
 
 二人はデキていないのか、砂月は残念だと落胆の色を見せる。
 デキていれば面白いネタができていただろうに、顔を顰めるものの、すぐに表情を変え、「あの」螺月さまと柚蘭さまを知っていらっしゃるのですか? と話題を切り出してくる。会話こそ理解できていなかっただろうが、節々に単語を拾い上げていたのだろう。




[*前へ][次へ#]

18/31ページ

[戻る]


第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!