02-19
「異例子は聖界人に強い怨恨の念を抱いている。聖界に反感の念も抱いている。死を教えるということは、そういった念を増させるということ。友人の死を知り、何をしでかすか分かったものではない。異例子の未知な力にはこちらとしても懸念を抱く。それに貴様等の生活も崩されるぞ」
こちらが見ている限り、些少ではあるが異例子は貴様等に気を許し始めている。
テーブル上に置いてある見たことも無い料理も異例子が作ったのだろう?
身内である貴様等を強く怨んでいる異例子がこのようなことをするまでになった。それは貴様等に少しならず気を許し始めたということだ。しかしあくまで気を許し始めた段階。憎悪が薄れているとは思えない。
もしも異例子が友人の死を知れば、聖界人であり身内である貴様等にも強い憎悪の念を抱くだろう。貴様等や民に異例子は刃を向けるかもしれん。菊代さまはそういったことを心配なされている。無論、貴様等の意見もご尤もだ。菊代さまも気掛かりだと仰っていた。
だが同居している貴様等や民の安全が第一だと菊代さまは判断した。
貴様等だって望んではいないだろう? 異例子との関係を悪化させるなど。こちらとしても異例子が何か事件を起こしたならば動かなければならない。
「折角、貴様等に気を許し始めているというのにそれをおじゃんにしたいか?」
「そりゃ…」
したいわけないではないか。柚蘭と螺月はテーブルに並べられた料理に目を向ける。
同居を始めてもう直ぐ1ヶ月。最初は自分達を避けていた末弟だったが、嫌悪混じりながらも言葉を返すようになった。鬱陶しいとあしらいながらも自分達と食事を取るようになった。部屋に引き篭もる方が多いが、呼べば顔を出す程度にはなった。
まだまだ末弟は自分達を赦していない。けれど聖保安部隊よりかは自分達に信用を置くようになった。だからこうして夕飯を作って待ってくれていた。
それを壊すようなことはしたくない。
しかしそれとこれは別の話ではないだろうか。
揺れる気持ちを察した郡是は「ご命令なんだ」と二人に畳み掛ける。
「この件については貴様等の胸に仕舞っておいて欲しい。これは菊代さまのご判断だ」
「それともお二方は、まさかもう異例子に話したわけじゃ!」
「は、話してはねぇって千羽副隊長。話せるわけねぇじゃねえか。あいつにとって親しい友人だったっぽいしな」
「話そうとも思ったんだけど、どうしても私達の口からでは言えなかったの」
「だったら話は早い」郡是は困惑している異例子の兄姉にトドメを刺す。
「一連の事件については内密にしてもらいたい。これは貴様等のためでもある。いいな、鬼夜柚蘭、鬼夜螺月。異例子には内密にしてくれ」
二人は暫く口を閉ざしていたが、「それが菊代さまのご命令なら」柚蘭が重々しく承諾した。続いて螺月も承諾。話は終止符を打った。
帰り際、隊の長と共に家を去ろうとした千羽はポツリと聞こえた言の葉を拾い上げてしまった。
「友人の死さえ知らされねぇなんざ、菜月は何処まで肩身が狭いんだろうな。ほんと、あいつは生まれた時から肩身のせめぇ思いばっかしてる」
それが妙に胸に深く刻まれた。
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