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かつての客の申し出、また漸進する




 * *
 

「―――…え? あたし達に協力してくれる?」
 
 
 風花は思わずソファーから腰を浮かし、爛々と目を輝かせながら喜びの声を上げた。
 

 
 時間は遡ること数分前。世間は日曜という休日に入っていたがネイリーも風花も変わらず、情報収集に精を出したり、落ちてしまった手腕を取り戻すためにトレーニングをしたりと時間を過ごしていた。
 事件以来、風花は仕事という仕事を休業してしまったため、体を動かすことが主になっていたのだが、ネイリーは“マスターキー”の仕事もしているため、その日の風花はトレーニング。ネイリーは書斎で仕事をするという形を取っていた。

 そんな二人に正午過ぎ、客が訪れた。
 いつものようにあかり達が遊びに来たのだと思っていたのだが、予想に反してやって来たのは雪之介と錦夫妻。雪之介はともかく両親まで来るとは一体全体どうしたことか。
 驚いた二人は足を運んでくれた錦家族と客間に入り、早速どうしたのだと用件を尋ねた。

 すると雪之介ソックリの面持ちをしている辰之助がゆっくりと口を開き、言葉を選びながら、「息子から話を聞きました」と話を切り出した。

 
「菜月さんとジェラールさんが聖界に帰ってしまったそうで。息子から話を聞き、夫婦揃って胸を痛める思いがしました。そして居ても立ってもいられなくなり、あなた方のところへ窺いました。ネイリーさん、風花さん、余計なお節介でしょうが我々にもお手伝いをさせては頂けないでしょうか?」


 申し出に風花とネイリーは揃って瞠目する。

 辰之助は言葉を続ける。“何でも屋”やネイリー達には大事な息子を雪消病から救ってくれた恩がある。感謝してもし切れない大きな恩がある。もしかしたら今頃、息子は天に召されていたかもしれない。風花達がいたからこそ息子がこうやって生きているのだ。

 今こそ、その恩を少しでも返す時だと家内や息子と話して此処に来た。迷惑でなければ是非とも手伝わせて欲しいと辰之助は申し出る。夫に加担し、妻の雪江も口も開いた。


「可愛い大事なユキちゃんを救ってくれた人達が困っているというのに、何もしないなんて道理に反します。話に聞くと、聖界への行き方を調べてるとか。私達は妖怪であり探偵です。そういった人脈は豊富です。私達からも情報を掻き集めてみたいと思います」


「ほ、ほんと?! それほんと!」
「ええ。最大限努力は致します」
 
 目を輝かす風花に雪江は目尻を下げて頷いた。
 「それは助かる」ネイリーも喜んで夫妻の申し出を受け入れた。自分の人脈だけでは手が足りないのだ。探偵の二人が手を貸してくれるなんて、とても心強い。申し出を喜んで受け入れてくれた二人に雪之介も良かったと微笑する。

 ズレた眼鏡を押し戻し、受け入れてくれなかったらどうしようかと思ったとばかりにおどけてみせた。


「少しでも力になれればって思ったんです。だって皆さんは僕の命の恩人達だから」

「雪之介。辰之助も雪江も、ありがと。ほんとにありがと。みんな大好きだよ!」

 
 喜びに胸を弾ませながら、風花は聖界にいる少年やセントエルフに語りかけた。

 菜月、ジェラール。
 あんた達に会えるチャンスがまた一つ掴めそうだよ。あんた達は今、何をしてるか分からないけどあたし達は絶対あんた達に会いに行くから!
 

 ―…ねえ菜月。
 
 あたしさ、ちょっと前まであんたさえ居れば別にどうでもいいって思ってたけど、やっぱ二人だけの世界じゃ駄目なんだねぇ。一人に囚われてちゃ駄目なんだねぇ。
 こうやって誰かがあたし達を助けてくれる。人の優しさに触れる度にあたしは思うんだ。色んな人と関わっていかなきゃ駄目ってことをさ。


 でもやっぱ心の底から囚われてるのはあんただけだけどね。


 菜月、あたしがそっちに行くまで、(腹立つけど)浮気してもいいからさ。他の女に目を向けててもいいからさ。元気でやっててよ。あたしが行くまで元気でやっておかないと承知しないから!

 早く、あんたに会いたいなぁ。

 

To be Continued...

 


20100701



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