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02-18



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(―――…嗚呼、とても気まずい。やはり明日に回した方が良かったんじゃ)
 
 
 長の命を伝えるために異例子達の仮住まいに上司と訪れていた千羽は、リビングキッチンの空気の重圧と息苦しさに窒息死しそうだと身じろいだ。
 
 敬っている隊の長であり自分の上司は、隣で涼しげな顔を作って前から飛んでくる睨みを受け止めていた。
 射殺しそうな睨みが飛んでくるというのに顔色一つ変えない。


 さすが隊長だと感心し、自分も見習わなければと前方に目を向ける。情けないことに直ぐに目を逸らしてしまった。


 忌々しそうにこちらを睨む螺月と、笑顔を作っているもののちっとも目が笑っていない柚蘭の視線に逸らさず得られなかったのだ。
 
 ある程度のことは覚悟はしていたが、やはりあの一件以来、彼等は聖保安部隊を信用していないようだ。聖保安部隊の自分達に過度なまでの警戒心を抱いている。向かい合うだけで彼等の心情が手に取るように分かる。周囲の差別からの経験上、強く警戒心を抱かざる得ないのだろう。

 だが、それにしたって向けられる警戒心の強さには頭を抱えてしまいたくなった。
 
 千羽は視線を落とす。食事中だったらしくテーブル上には食べかけの料理が並べられている。見たこともないスープ料理が目に付いた。
 これはこの家族の間で食べられている料理なのか、それとも異例子が作った料理なのか。どうも後者のような気がしてならない。聖界では見られることのできないスープのように思えたのだ。

 「何の用だ」話を切り出したのは腕と足を組んで不機嫌に座っている螺月だった。
 

「聖保安部隊ってのは随分仕事熱心なんだな。午前様近ぇ時間に訪問するなんざ。
ああ、そうだ。悪いが菜月はもう寝てるぞ。起こせってなら、明日にしてもらっていいか? あいつ疲れてるみたいだから。俺等も疲れてっからさっさと食って寝てしまいてぇんだ。用件は手短にな」


 ピリピリとした物の言い方。言の葉に高圧線でも張っているかのようだ。
 ますます息苦しさを覚える千羽に対し、「夜分遅い訪問には申し訳なく思っている」郡是は毅然に応対、彼等に対して静かに詫びを口にした。しかし長から大切な命を受けたのだと説明を重ねる。 

 すると向こうの怒気や警戒心がやや和らいだ。
 「菊代さまから?」柚蘭はどういうことだと説明を求めた。暮らしは順調、聖保安部隊が問題を起こしたものの、他の件については何も問題は起きていない筈。と、棘を含む問い掛けを正面から受け止め郡是は説明する。ジェラール・アニエスの一件を。
 

 淡々と説明される内容に二人は目を削いだ。

 そして異議を申し立てた。ジェラール・アニエスは菜月の大切な友人のひとり。同じ罪を犯したセントエルフの身の上のことも菜月自身よく知っている。今は良くても、いずれはセントエルフのことを気に掛けるに違いない。隠し通せる筈ないではないか。
 それに酷だ。友人の死を知らされないなど、あまりに酷ではないか。せめて最後の別れくらいさせてやろうというのが人情ではないだろうか。


「後日知るよりは今知らせてやった方がいい。俺はその命に反対だ」

「最初、菊代さまは菜月にこの事実を知らせると仰っていたわ。何か深い理由があるのかしら? あったとしても、私も反対よ。やはり知らせるべきだと思うわ」


 ご尤もな意見を出す二人に、郡是は暫し間を置き、重々しく口を開いた。




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