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15-06


 
 「まだ若いのにな」栖也は哀れみの眼を子に向ける。一端の父親魂が子への同情を強くさせているのかもしれない。
 話についていけていないカタテンは首を傾げていたが、「おいで」ベリーが両手を広げると、気恥ずかしいのか人見知りをしているのか菜月に擦り寄ってしまう。「あらら」フラれちゃった、ベリーは微苦笑を零して自分の両手首を見つめる。

  
「私は今の四天守護家が悪いとは言わない。だけど、思想に固執していても発展どころか、文明は衰退していくだけだと思うの。これからの魔聖界は諍いではなく友好を築き上げていかないと…、私の考えは間違っているのかしら?」

「答えが正しくても、それが必ずしも受け入れられるとは限らない。そういうものじゃ、時代というものは」


 しゃがれた声音は、最後の執行人のもの。
 揃って視線を四隅で寝転んでいるご老人に向けると、腹部を掻きながら欠伸を噛み締めている天使が上体を起こして気だるく会話に入ってきた。「時代の皮肉じゃよ」苦笑する老人に、「そういうものなんでしょうか?」とベリー。
 頷く老人、名は鬼夜 蒼々月(おにや そうそうづき)は吐息ついて目を伏せる。
 
「魔界交流。きっと受け入れられる時代はいずれ来る。じゃが、今じゃない。それだけじゃよ、お嬢さん。ワシも同じことを唱え続けて早幾年…、まだまだ時代は受け入れてくれなさそうじゃ」
 
 「聖界は頑固ですよね」ベリーの不満に、「愚痴をゆうてもしょうがないぞ」蒼々月は若人に諭して菜月に視線を流す。

「異例子。確か主は琴月の孫じゃな」

「じいさまを知っているのですか?」

 瞠目する菜月に、驚くことじゃないと蒼々月。


「琴月は鬼夜族でも人望に厚い男じゃったしな。知らん者はおらんよ。ワシはあいつと同期じゃったが、やや助平な奴でな。当時付き合っていた菊代さまをよーく怒らせておった。一番有名なのは、菊代の入浴を覗き見ようとして大騒動を起こしたことじゃったな」


 「…じいさま」何してるんですか、ほんと…、菜月は亡き祖父の行動に頭痛を起こす。

 確かに自分の祖父はやや助平だった。それは認める、認めるが…、此処でその話を聞くと孫として居た堪れないものがある。て、え、付き合っていた? 菜月は寝耳に水だと瞠目する。
 「まあ」表向き、二人は友人じゃったがな、裏ではこっそり付き合っていた。蒼々月は懐古しながら語ってくれる。
 
「まさか琴月が菜乃子(なのこ)と結婚するとは思わなかったがなぁ。主は菜乃子によく似ておる。名も菜乃子から取ったようじゃな」

「ばあさまにはお会いしたことがないので、何とも言えないのですが」


「菜乃子はドジが目立つ、じゃが可愛い女性じゃった。琴月には勿体無い女性じゃったな」
 

 どこでどうやって落としたのやら、蒼々月の疑念に菜月は苦笑いで受け止めるしかない。
 
 もっと祖父母について聞きたい気持ちはあったのだが、第五聖保安部隊隊の長がプリズン前にやって来たため、自然と会話が打ち切られる。
 険しい面持ちを作っている郡是は部下に格子の解除を命じた。手早く光格子を解除する部下は異例子を連れ出し、術を掛けなおす。「お兄ちゃん」プリズンに残された流聖が不安げな声で呼んできた。

 答えてやりたかったが、せかせかと歩く聖保安部隊のせいで振り返ることも出来ず。

 連れて行かれるがまま菜月は郡是達と小部屋に入った。
 そこは尋問室なのか、殺風景な部屋には机と椅子、そして窓。最低限のものしかない。人間界の刑事ドラマで見るような部屋だ。やや空気が籠もっているのか、温度が高い気がするが。
 心中でくだらないことを思っていると、隊員の手によって無理やり席に着かされる。説明もされず連行されたことは気に食わないが、向こうの苛立ちの含まれたオーラを肌で感じた手前、何も言えず。
 
 菜月は視線を机上に向けて、木面の模様をひたすら見つめていた。向こうが話を切り出すまで、いつまでも。
 



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あきゅろす。
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