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02-13


 
 しばし間を置き、「異例子の様子はどうでございましょうか?」菊代は二人に監視について尋ねた。何も問題は起きていないか。
 問い掛けに二人は一瞬表情を強張らせたが、何事も無かったかのように肯定の返事を返した。返さざる得なかった。まさか聖保安部隊が問題を起こしたなどと長には報告できない。

 兄姉とぎこちなくながらも暮らしに馴染み始めていると説明をした。

 
「兄姉の配慮もあり、問題なく過ごしております。聖界人には強い警戒心を抱いておりますが」

「些少ではございますが兄姉には気を許してる面も見え隠れしているようです」


 郡是と千羽の報告にやや訝しげな眼を投げたものの、「そうですか」菊代は何処となく安堵の息をついて一つ納得するように頷いた。

「身内に強い憎しみを抱いている故に、彼等との同居に些か不安はございましたが問題が起きていないのならば安心でございます。鬼夜柚蘭、螺月のことを考えると尚のこと一件は異例子には内密にしておくべきでしょうね。ようやく生活も安定しつつあるようでございましょうし」
 
 長の立場からしても一個人の立場からしても異例子への報告は望ましくない。
 菊代は改めて郡是と千羽に視線を投げると、毅然と命を下す。

 
「民と同居している兄姉の安全が第一でございましょう。郡是隊長、千羽副隊長、この一件については異例子に一切漏らしてはなりません。良いですね? 一切漏らさぬようこの件を知る者すべてに伝えなさい」


「御意」

「またジェラール・アニエスの亡骸は両親の元に返してやりなさい。両親に連絡はつきましたか?」


 「いえ、それが」郡是は言葉を濁した。

 ジェラール・アニエスの死後、両親に連絡を取ろうと彼が暮らしていた地を歩き回ったのだが消息が掴めず。ようやく住んでいたであろう一軒家を訪れても既に引っ越した後。彼の両親が今何処に居るのか見当も付かないと郡是は現状を報告した。
 顔を渋め、菊代は軽く目を伏せる。
 
 
「では亡骸はこちらで葬りましょう。後日指示を致します。二人とも、下がって良いですよ」
  
 


 長の間から出た二人は自分達の当てられている仕事部屋に戻るため、シンと静まり返った回廊を早足で歩く。

 千羽はようやく一息つけると肩の力を抜いた。もっとも、尊敬する隊長の前ではそのような態度は取れず、あくまで心中でリラックスモードに入った。
 やはり長の前だと緊張の度が桁違いだ。長であり大女神でもある菊代は長の中で最も慈愛溢れた方だと歌われているのだが、やはり緊張してしまうものはしてしまう。

 はぁ…と上司に気付かれないよう、千羽は心中で吐息をついた。
 

 しかし郡是は非常に観察力のある男だった。


 「疲れたか?」気遣いを見せてくる。「いえ!」背筋を伸ばし、こんなことでへばっていては聖保安部隊の名が廃る。早口で言うと郡是は確かにな、と珍しく微苦笑を零した。
 苦笑いは入っているものの、滅多に見られない隊長の笑みに千羽も思わず表情を崩す。



「千羽、今日の監視はどうだった? 何事も無かったか?」


 
 話題を切り替えられ、千羽は慌てて答える。「何もなかったです」

 聖保安部隊が起こした事件以来、必ず隊長または副隊長を交えて監視をするようにしている。
 でなければ、またあのような事件が起きるかもしれないと郡是は判断したのだ(部下をしばき倒していた隊長は鬼のように恐かった。千羽は思い出し身震いをしてしまう)。

 「何もなかったならいい」安堵の表情を見せる郡是に、「何もなかったんですけど…」千羽はポリポリと頬を掻いた。




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