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02-11


 
 決して風花が言ったから、という気持ちだけで動いているわけではない。自分の意思がそこに宿っているのだと吸血鬼は語る。
 風花がああいう風に言ってくれなければ、聖界に行きたいと思いつつも自ら一歩を踏み出すことは出来なかっただろう。いつまでたってもモヤモヤだけが胸を占め、行動すら出来なかっただろう。だからとてもとても感謝しているのだ。風花の案に。聖界に乗り込むと言ってくれた風花に。

 表情を崩すネイリーに風花も微笑を零す。胸に引っ掛かっていたものがスーッと取れたような気がした。心置きなく聖界に行く、と発言できるような気がした。
 窓枠に凭れ掛かり、風花はネイリーに言う。「ジェラールなら大丈夫だって」


「強い女だよ、ジェラールは。きっと向こうで上手く乗り切ってるって」

「ああ、僕もそう思うよ。彼女はとても強い。それに友人作りも上手い。もしかしたら向こうで友を作っているかもしれないな」


「だって悪魔と吸血鬼を友達にするくらいだしねぇ。向こうに行って心配して損した、なんて思うんじゃない? あたし達」

「まったくだ。彼女に話せばきっと、『心配性なんだからぁ』とか言って笑われてしまうだろうな」


「どーせならダーリン、ジェラールと同居してくれれば良かったのになぁ。そしたら探し出す手間も省ける。ジェラールはネイリーゾッコンだから安心して任せられるしねぇ」


「フロイライン、僕とジェラールは男同士だぞ。結ばれたら僕は僕に驚きだ」

「あたしは驚かないって。結構お似合いだよ。あんたとジェラール」

 
 「今は素直に褒めとして受け取っておくよ」ネイリーは苦笑いを零した。
 風花もまた笑声を漏らし、天を仰いで糠星に目を向ける。今、自分達が見ている空を、ジェラールや菜月も何処かで見ているに違いない。聖界と人間界、世界も場所も違うけれど見ている空は同じだ―――。
 

 
 一頻りネイリーと話し、トレーニングをこなした後、風花は汗を流して自室として使わせてもらっている客室に入った。
 
 スケルちゃんが気を利かせてくれているのか、身代はいつも整っている。
 フカフカのベッドにダイブし、風花は今日も一日頑張ったと枕に顔を埋める。「お日さまの匂いがする」いい匂いだと綻ぶ。寝る時刻にはまだ早い時間だが、体を動かしたため疲労がドッと襲ってくるのだ。
 少し前ならばドラマを見ている刻だが、そんな悠長なことをしている場合ではない。風花は顔を上げ、ベッドから身を乗り出して部屋の明かりを落とす。
 窓から差し込む月明かりだけ部屋を満たした。

 うとうとと夢路に向かいながら風花は一つ欠伸を零し、毛布に潜り込む。
 
 暖かな毛布に包まりながら必ず寝る前に思うのは少年のこと。片時も忘れたことは無い。いつでもいつも彼のことは片隅に置いている。離れていても彼を想っている。

 「菜月、もう寝てるかな」向こうの時間は分からないけれど、人間界と同じ時刻ならばきっと少年も床についている筈。


「いばらの奴、もう聖界に行っちまったのかな。あいつ、どうやって聖界に行くつもりなんだろ? 異動魔法は使えないだろうし。行く方法、知ってるのかねぇ」


 あいつにだけは死んでも負けたくない。奪われたくない。なんて思いながら欠伸をまた一つ。

 嗚呼、ベッドが広いな。
 ひとりで眠るにはちょっと物寂しい。大好きなぬくもりが恋しい。彼は自分が寂しがるといつも一緒に寝てくれたっけ。身じろぎ、風花は目を閉じる。

 大丈夫。ぬくもりは恋しいけれど心に彼がいる。だから今夜も寂しいけど眠れる。
 
 最後に見た少年の泣き顔と、普段から見ていた少年の笑顔を交互に思い返しながら風花は眠りについた。「菜月…」好きな少年の名を一つ零して。 




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