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12-10


 
 だけど、こればっかりはどうすることもできない。
 
 肩を竦める風花に相槌を打ち、ネイリーはこれからどうするかと相手に尋ねる。
 取り敢えず、街の様子を探るために彷徨はしているが、なにぶん此処は西区。鬼夜一族は勿論、鬼夜直属の聖保安部隊もいる。彼等に見つかったら非常に厄介だ。まさか「他人の空似です」なんて見え透いた言い訳が通用するとも思えないし。
 特に聖保安部隊に見つかれば厄介も厄介。自分達の顔を割られているのだから。
 
 なるべくは無駄ない行動をしたい、ネイリーの意見に風花は同調してみせるものの、漠然とした目標しか抱いていない自分達だ。
 無駄ない行動をする前に、計画を立てなければならない。しかしその計画に使う小さな動きが定まっていないのだからどうしようもない。せめて何処かのカフェにでも入れたらいいのだが、なにぶん無一文だ。飲み食いはできない。

 悪魔の嘆きに、「おっとフロイライン」僕は“マスターキー(各世界を開く者)”だぞ。こういう備えはバッチリだ、と吸血鬼はウィンクして鞄を叩く。


「聖界の通貨は用意してある。準備が良いだろう?」


 一点の光を見出した風花は、「ネイリー!」あんたって超イイオトコ! ナルシスト吸血鬼を褒めちぎる。

 よって調子に乗ったネイリーがそれほどでも、と締まりのない顔でデレたのはこの直後。風花は早速彼の腕を引いて、近場のカフェへと入った。そこでサンドウィッチとスープを頼み、すきっ腹に栄養を詰め込む。
 影の中に隠れているカゲぽんにこっそりとサンドウィッチを手渡しながら、ネイリーは改めてこれからどうするかと相棒にクエッション。

 自分達の目的は仲間の再会。
 
 だが片方は牢獄、片方は訃報が入っている。先に真実を確かめるならば後者なのだが、ネイリーとしては一刻も早く前者と再会したかった。何故ならば、投獄されている仲間は既に“聖の罰”を受けると確定している。早く助けなければ、仲間の命が危うい。
 分かっていると風花は眉根を寄せつつ、スープを胃に流しで一息。そして思っていたことを口にする。


「菜月の兄姉に会えないかな」


 危うくスープを零してしまうところだったネイリーは、「兄姉ってあの二人かね?!」頓狂な声音で聞き返す。
 うんっと一つ頷き、風花は菜月の兄姉に会わないかと提案した。唖然としていたネイリーだが、少し落ち着こうかとカップを置いて悪魔を見据える。

「フロイライン。それは危険極まりない行為だと分かっているのかね? ただでさえあの二人は、僕等に嫌悪していた天使達。会えばどうなるか」

「分かっているけどさ。“聖の罰”を行おうとしているのは四天守護家。その内情に詳しいのは、四天守護家の一族。んでもって菜月の様子に詳しそうなのもあいつ等」
 
 もしかしたらジェラールのことを知っているかもしれない。
 
 菜月と家族に戻りたがっていたあいつ等なら、きっとあたし達の望む情報を沢山持っていると思うんだ。危険だってことは分かっているけど、あたし達には四天守護家の情報が不足している。聖界の中で、唯一手を貸してくれそうなのっていったらあの二人だ。
 よーく話し合えば手を貸してくれるかもしれない。

「柚蘭と螺月はあたし達に好意感は持っていなかった。けど、あたしはあの二人に好意感を寄せているんだ。あいつ等、悪い奴等じゃないって分かってるから…、菜月のことを真摯に心配している家族だしねぇ。なんとなく、あいつ等を信じたいんだよ。あいつ等となら和解できるんじゃないかって」

「うーむ、確かにご尤もだか。和解するには壁を乗り越えなければならないぞ」

「種族?」


「いや、相手側のブラコンの壁だ。僕もシスコンだったから分かるが、この壁の分厚さと高さは並々ならないものだぞ」





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あきゅろす。
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