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12-04




 ―…例えば、例えばである。
  
 
 このまま一年、二年、三年と彼等が戻って来なかったら。それでも自分は彼等を信じて待っていられるだろうか。大丈夫、いつか戻って来ると明るい思考で待っていられるだろうか。
 一年と簡単に括っているものの、その単位数は365日。短いようで長い。気丈に振舞っているものの、一年だって気長に待てるかどうかも自信がないのだ。彼等は一年内には戻って来てくれるだろうか。


 ネガティブな未来を想像してしまい、あかりは肩を落とす。

 
 「あ、ダメダメ」かぶりを振って考えを改めなおした。暗くなってどうする。向こうだって危険を冒して聖界に向かっている、もしくは聖界に身を置いているのだから、こっちだって気長に待つことくらい造作にもないこと! 暗くなってはポジティブ吸血鬼に笑われてしまうではないか!
 なにを暗くなってるんだい、笑ってないと福が逃げるぞ、なーんておどけ口調で自分に一笑。彼は手塩に育てた薔薇を押し渡してくるに違いない。

 そんな彼が自分に手向けてくれた約束。
 ほら、目を閉じれば思い出す。


『必ず約束は守る。男が一度約束を口にしたのだ。守る守らないの話じゃない。守り切らなければな』

『男ならば、大切な物を賭けてやらなければいけない時がある。大切な物とは覚悟ではなく、これは男としての誇りかもしれない。今まさにその誇りを賭ける時だな。なにせ君のような可愛いフロイライン(お嬢さん)と約束を交わしたのだから』
 

『あかりくん、僕等が留守中でも君は笑っておくれ。君に涙は似合わないさ』
 
 
 胸が熱くなる、約束の数々。その言の葉。
 
 あかりは一変して綻ぶ。なんでだろう、ナルシスト吸血鬼の真っ直ぐな約束がささくれ立っていた心を癒してくれる。不思議だ。
 が、あかりはコロッと表情を変えて顔を顰める。先程からどうしてナルシスト吸血鬼のことばかり。銀色の悪魔だって帰って来る・戻って来ると言葉を贈ってくれたではないか。真っ先に蘇ってしまった吸血鬼の台詞にあかりは口をへの字に結ぶ。

 前々から吸血鬼のことでちょいちょい気にはなっていたが、いやまさかその対象。そんな馬鹿な、自分がナルシスト吸血鬼のことを。いやいやいや冗談でも笑えな「おい本条」
 
 ビクッ、突然聞こえてきた声にあかりは素っ頓狂な悲鳴を上げて、バッと体ごと勢いよく振り返る。
 
 ぱしゃんっ、勢いづいたためか、如雨露から零れた水の塊が相手に襲い掛かる。
 「あ、」やってしまったと苦笑いを零すあかりに対し、「お前」喧嘩売ってるのかと相手は片眉根をつり上げた。握り拳を作って仁王立ちしているのは幼馴染みサマ…、なり。水を汲もうとしていたのだろう。空になった如雨露が視界に飛び込んでくる。

 てへてへっとわざとらしく、水場から退いて見せるが相手の怒気は取り巻くばかり。

 
「変顔でいつまでも水場を占領してると思ったら、なんて仕打ちしてくれやがるんだよ。本条サーン」

「み、水も滴る良い男デスヨ。東西クーン」
 
「じゃあお前にも掛けてやろうか? ちったぁ可愛くなるかも、だぜ? 水も滴る良い女になってみマスカ? きーっと水をぶっ掛けられた俺の気持ち、大層分かってくれる筈だぜ」


 わぁお目がマジだ、本気と書いてマジ。
 これは潔く、「ごめんなさい」謝るのが最善の手だろう。ぺこっと頭を下げるあかりに、「ったく」舌を鳴らして冬斗は水場に立つ。着替えなくて良いか、良ければスケルちゃんに着替えを用意してもらうけれど。おずおずと申し出てみると、「そのうち乾くだろ」着替えるなんて面倒だと気だるく返答された。
 

「で?」


 桶から如雨露を取り出した冬斗が、ナニをケッタイな妄想をしていたのだと揶揄。どうせ碌な妄想じゃないんだろうけど、にやりと意地悪く口角をつり上げてみせる。
 失礼極まりない奴だ。水を引っ掛けてしまったことに対しては謝罪するが、今のは頂けない。確かにケッタイではないが、少しばかり自分の気持ちの変化についていけずやきもきはしていたが。ええ、していましたとも。逆ギレ? もう、なんとでも言って欲しい!

 煩いと鼻を鳴らすあかりは、うぇっと相手に舌を出した。
 
 「ガキくさい奴」呆れ、肩を竦める冬斗は結局ナニを妄想していたのだと再三質問。
 しつこい奴だとあかりがそっぽを向いた直後、「風花先輩達のことか?」的確な指摘を受けてしまう。ドキリと胸を押さえつつ、なんで分かったのだと相手を流し目。


 「勘」冬斗はぶっきら棒に答えた。
 
 



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