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02-09


 

「“魔界の三妖女”北風の悪魔がこれで終わると思ったら大間違いだよ!」
 
 
 あの野郎、覚えとけよ。絶対借りは返す。
 聖界に行ってもあいつにだけは絶対借りを返す。やられっ放しはあたしの趣味じゃないんだよ。男も女も天使も悪魔も関係ない。やられたものは返すのみ。そうだろ―?
 
 風花はバイコーンの角を弾いて相手の死角に飛び込んだ。
 とにもかくにもあの頃の手腕を死に物狂いで取り戻す。でなければあいつへのリベンジも聖界への道も何もないのだから。
 
  
 
 小二時間ほど経過した頃、風花は休憩を入れることにした。

 積極的に相手をしてくれたバイコーンの身を案じ、「怪我は大丈夫?」と優しく頭を撫でる。
 息遣いは荒いものの、バイコーンはなんてこと無いとばかりに体に頭を擦り付けてきた。それに綻び、風花は何度も何度も頭を撫でる。今日はここまでにしよう。後は単独でトレーニングをするとバイコーンに伝え、頭や体を撫で回す。「あんがとな」合間あいまに礼を告げた。

 この二週間、毎日のように真剣に相手をしてくれているバイコーンの優しさがとても有り難かった。

 感覚を取り戻そうとネイリーとも一戦交えた事があるのだが、彼には女性は傷付けないとポリシーがあるのか本気で相手してくれないのだ。
 途中で「僕には無理だ。フロイラインに刃を向けるなんて!」と武器のサーベルを投げ出す始末。ちっとも相手にならなかったのだ。
 
 しかしネイリーが悪いのではない。
 
 相手をしてくれと無理強いさせてしまった自分に非があった。彼は彼なりに自分の気持ちに応えようとしてくれたのだが、ネイリーは基本、女性には優しい。しかもネイリーは元々自分に好意を持っていた。本気で相手などできるわけないのだ。それを知っていながら相手を頼んだ自分が悪い。
 
「すまない。フロイライン。しかし僕は、僕は!」

 頭を抱えるネイリーを落ち着かせ、風花は無理強いさせたことを謝った。
 調子に乗ったネイリーが自分を抱き締めようとしてきたため、右アッパーを食らわせたのは余談としておこう。
  
 
 風花はバイコーンに手当てを施した後、軽く外でも走ってこようと部屋を後にした。
 ついでにバイコーンのために飛び切り美味しい干草をスケルちゃんからもらおう。今日も一日よく相手をしてくれたのだ。それくらいのご褒美はやらないと罰が当たるしバイコーンにも悪い。
 
 そんなことを考えながら風花は地上へ続く階段を駆け上る。
 長い廊下を駆けながらスケルちゃんの元に向かっていると、「ん?」風花の視界にチラッと外の景色が映った。すっかり日が暮れてしまっていたが窓から見える光景に思わず足を止めてしまう。フラフラッと窓辺に歩み寄り、窓を開けた。
  
 目に映ったのは誰もいない屋敷の庭でサーベルを振るっている吸血鬼の姿。
 軽く汗を掻いているのか、月光に照らし出されたこめかみが薄っすらと煌いている。背広を地に放り捨て、ワイシャツ姿で紅薔薇サーベルを振るっている姿は神々しくさえ見えた。

 それだけではない。

 彼の持ち前の魔力がいつになく高い。魔力を感じる事が苦手な風花でも肌で感じる。異名“紅薔薇”をフルに使い、無数の薔薇の花弁を天高く舞い上がらせている。量は通常の倍だ。

 瞠目する風花に対し、ネイリーは刃先を地に向け、「これはしんどいな」とワイシャツのボタンを上から二つ外していた。


「おや、そこにいるのはフロイラインかい?」

 
 振り返るネイリーの目は充血してしまったかのように赤かった。生えている牙も本当に吸血鬼のようだ。通常の倍大きいし尖っている。

 風花の姿を見つけると、彼は普段見る吸血鬼の姿へと変わった。眼はもう充血しておらず、いつもの綺麗な紫の瞳がこちらを覗いていた。サラッと前髪を弄くりながら窓辺にいる風花に歩み寄ってくるネイリーに何をしていたのかと尋ねる。彼は即答した。聖界に行くまでに少しは腕を上げておこうと思ったのだ、と。

 「しかし急には上がらないものだな」ネイリーはシャツの袖で汗を拭った。




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