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05-18




「螺月って…何かと俺に構ってくれるよね。いつもそう。小さなことから心配してくれるっていうか、子供扱いしてくるっていうか、なんていうか」

「それはね。螺月がずっとお兄さんになりたかったからよ」
 
 
 螺月が兄に憧れを抱いたのはもうずーっと昔の話。
 まだ父上と同居していた頃、螺月は毎日のように家に帰りたがらなかった時期があるの。理由は父上が家にいるから。家に帰ってくるから。螺月、父上のことを極端に嫌っているの。
 
 ほら父上と再会した時も過度な嫌い方をしてたでしょ。

 螺月は物心ついた頃から父上のことを好く思っていなかった。父上の素っ気無い態度、通り越して冷然な態度に心から嫌悪してたみたいなの。
 しかも容姿が似てるでしょ? 性格も嫌、容姿は自分と似ている、あいつは自分達に冷たい、父上の何もかもが気に食わなくて、螺月は朝から夜まで西大聖堂に篭っていたわ。とにもかくにも父上と顔を合わせたくなかったのね。一緒に帰りましょうって声を掛けても嫌だの一点張り。だから私も西大聖堂に篭る羽目になって。


 そんなある日、私と螺月は西大聖堂の倉庫室に閉じ込められたことがあるの。

 
 その日も家に帰りたくないって螺月が我が儘を言うものだから、それに付き合ってね。
 最初は書庫で時間を潰していたんだけれど暇になって、二人で西大聖堂を探索し始めたの。グルッと一回りするだけのつもりだったんだけど、途中半開きの倉庫室を見つけてね。私も螺月も興味を持って中に入っちゃったの。
 
 ちょっと覗いたら出るつもりだったんだけど、倉庫の中は大きいし広い見たこともない道具や魔具が沢山積んであるし。子供の私達にとってとっておきの遊び場を見つけてしまった気分になったの。時間も忘れて二人で魔具を手に取ったり、眺めたりして遊んだわ。


 で、もう充分だって満足して出ようと思ったら「あら、鍵が開かない…」になってさあ大変。

 兵の人が私達に気付かず倉庫室を閉めてしまったみたいなの。
 

 倉庫室は滅多なことじゃ開かないから、次にいつ開くのか見当もつかない。窓から出ようにも倉庫室は三階の最奥にある。三階から飛び下りるなんて行為、子供の私達にはできなかった。
 
 私も螺月も焦ったわ。扉を叩いたりして助けを求めたけれど誰も気付かない。声を上げてみたけれどやっぱり誰も気付かない。ますますパニックになってね、お腹は減るし、喉は渇くし、まだ幼かった螺月は意地を張っているけれど泣きそうな顔をするし。
 でも「このまま一生此処にいるのかな」なんて螺月が独り言を漏らしたから、私、お姉さんとして何かしないといけないって思って。螺月に言ったの。


『ロープを使って窓から外に出ましょう』


 幸い、倉庫室には長いロープが何本か放置されていた。私はそれを使って外に出ようって螺月に提案したの。

 勿論、螺月は反対したわ。三階からロープを伝って外に出るなどできっこない。何よりも三階から一階に下りるなんて恐い。幼かった螺月とって私の案は恐怖でしかなかったの。でも私は言ったわ。私が螺月をおんぶするからって。
 
 今思うとなんであんなことが出来たんだろうって思うけど本当に私、螺月をおんぶして、三階から一階までロープを使って下りたの。火事場の馬鹿力とは言ったものよね。必死の思いでロープを握って、壁を使って、ゆっくりゆっくり下におりていったわ。
 二人分の体重を支えながらだから手の皮はズルズルに剥けたけれど、弟を絶対に落としちゃ駄目って気持ちが勝って、私達はどうにかこうにか無事に脱出できた。 
 丁度衛兵が私達の姿を見つけて、私達は保護されたわ。
 倉庫室に無断で入ってしまったこともばれて、母上にはこっ酷く叱られたわ。でも私は弟に怪我を負わせなかった安堵感の方が勝って、螺月に怪我無くて良かったって何度も口にしたわ。
 
 そしたら螺月、どうしてあんな危険ことができたんだって私に聞いてきたの。自分を背負って三階から一階まで下りるなんて、そんな勇気、何処から出てきたんだって。
 
 私は答えたわ。「螺月がいてくれたからできたのよ」って。
 だって私は螺月のお姉さん。何が何でも守らないといけないと思ったから。螺月は間を置いて更に質問したわ。「俺がいたから強くなれたのか?」って。強くなるだけじゃないって私は答えたわ。

『カッコつけになっちゃうのよ。だってお姉さんが弟を守れないってカッコ悪いじゃない? 上になるとカッコつけたくなっちゃうのよ。螺月もお兄さんになったら分かるわ』

『じゃあ俺に下がいたら。柚蘭と同じようになっちまうのかなぁ』

『ふふっ、どうかしら。でも螺月なら、そうね。優しいカッコつけのお兄さんになるんじゃないかしら』


『―…柚蘭、俺、兄貴になりてぇ。てめぇみたいにカッコつけるような、でも下を守れる兄貴になりてぇ! 強くなりてぇ!』






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