[携帯モード] [URL送信]
05-07

 
 

 * *
   
 

 翌週の水の祈り・風の拝、本日の天気模様は先週と同じく快晴なり。

 
 「お天気になって好かったわ」窓を開け、空を仰ぐ柚蘭は雲ひとつない快晴にご満悦。気温も穏やかで、吹くそよ風は心を躍らせる。
 ふふっと笑声を漏らし、柚蘭は窓を閉めると急いで支度しなければ、と机上に置いていたブラシを手に取って椅子に腰掛ける。
 
 コンコン―、ノック音が聞こえたため、「まだ支度できていないわ」返事の代わりに状況を説明。
 
 途端に扉越しから「まだかよ」遅ぇっと悪態をつく声。仕方が無いではないか。女の子は支度に時間が掛かるのだから。扉向こうで待っているであろう弟にそう告げ、先に戸締り等々をやっておいて欲しいと頼む。既にやってると不機嫌に返され、先に外に出ておくと気配が遠ざかった。
 声からして待ちきれぬ様子。これは早く仕度をしなければ、向こうの機嫌を損ねてしまうに違いない。せっかちな弟に苦笑を零しつつ、柚蘭は長い金糸をブラシで丁寧に解き始めたのだった。
  

 
「はぁーあ、柚蘭のヤツ。まだ支度できてねぇとか。なーんで女って支度に時間を掛けるんだ? 意味分かんねぇ」
 

 ぐわっしぐわっし、足音を鳴らしながら廊下を歩く螺月は頭の後ろで腕を組み、付き合ってられねぇと溜息。姉の身支度の遅さはある程度、認知してはいるが、今日くらい急いで支度をしてくれないだろうか。
 折角三兄姉で出掛けられる、大事な日なのだから。

 螺月は荒々しく玄関扉を開ける。
 
 すると、その向こうには既に支度を終え、自分達の姿を今か今かと待っている待っている姿があった。
 手持ち無沙汰になっている末弟は、周辺の景色を眺めて暇を潰している。末弟は普段着のローブの上からフード付きのベージュ色のローブを羽織っていた。深くフードを被って顔を隠している姿に、やや苦笑。螺月はゆっくりと末弟に歩み寄る。
 

 族長・鬼夜菊代は異例子の外出をすんなり許可した。
 

 千羽副隊長曰く、「異例子が外出を? 宜しいでございますよ」まったく問題はないだろうと切り出された話題に二つ返事でOKしたとか。
 ただし中央区に出掛けるに当たってお目付けは付ける。しかも中央区は人口密度が高いため、警戒レベルを上げて隊長と副隊長がお目付け。もう一つ、その隊長と副隊長が両方お目付け役を受け持つことの出来る日程を外出日とする。片方が欠けていては勿論外出の許可は下ろさない。
  
 という条件を突きつけてきた。
 よってこちら側としては喜んで条件を呑み、聖保安部隊としては頭痛のしてくる状況下になってしまったわけだ。先週は唐突の申し出だったため、隊長達の日程が合わず、今日まで先延ばし。つまり本日は待ちに待った外出日というわけだ。
 
 「菜月」螺月は菜月と肩を並べた。顔を上げる末弟は、「あれ?」柚蘭はどうしたのだと疑問を口にする。
 まだ支度中だとぶっきら棒に返す螺月は、いつもこうなのだと愚痴った。苦笑いを返す菜月は、話題を切り替えるように今日は何処に行くのだと質問。というか、中央区には何があるのだと質問を重ねる。


「俺、実を言うと聖界のこと、ちっとも知らなくてさ。中央区は聖界の国都、だとか…、東西南北区それぞれ四天守護家が管轄している、とかしか…知らないんだよね。中央区はおっきいんでしょ?」
 
「ああ、なにせ聖界の中心だからな。中央区といえば…、あーそうだな…、いっちゃん有名なのは市場が盛んなことか。どの区よりも市場がでっけぇんだ。祭りなんかがあったら、すっげぇんだぞ。どーっこ行っても天使や聖人ばっか。目が回りそうだ。
それからループルが超有名。ま、ループルといえば中央区が強ぇしな。西区も頑張って欲しいんだが、最近の実績…芳しくねぇし。はーあ、情けねぇ結果ばっかだしやがるし」
 
 
 ブツブツと愚痴を零す螺月は、「な?」と菜月に同意を求めた。が、菜月は目を点にするだけ。寧ろ首を傾げて、「えーっと」と腕組みをする始末。
 そんなに難しいことを言った覚えは…、あ、螺月は気付く。菜月はループルを知らないのだ。そりゃ首を傾げたくもなるだろう。誰しもが知っている聖界の知識をまるで知らない。それだけ聖界に居る期間が短く、聖界の文化にも殆ど触れられなかったのだから知らなくて当然。

 「んーっとな」螺月は傍に落ちていた枝を拾い、しゃがんで地面に絵を描いて説明を始める。
 
「ループルってのは、スポーツの一種なんだ。簡単なスポーツでな、1チーム7人体制。お互いの陣地にでっけぇ魔法陣が召喚されてるんだが、それを特殊なボールを使って壊すってのがルール。ボールに直接触れたら失格だから、ピッツって特殊な長い棒を持ってボールをパスし合ったり、攻撃したりするんだ」

「へえー、なんだか人間界でいうサッカーみたいな競技。棒を使うことはなかったけど」

「ちなみにピッツには自分の魔法を掛けていいルールなんだ」

 だから、攻撃する際は火の魔法を掛けて相手に攻撃をすることもあるし、水の魔法を使って器用にボールを受け止めたりすることもあるし。魔法をいかに上手く使って魔法陣を壊すのかが、最大の見所なんだ。
 俺、この競技が大好きでさ。昔はよくやってたもんだ。
 ガキの頃はプロになってみてぇとかも思ったが、四天守護家の天使は、ループルのプロにはなれねぇって決まりだったから、すぐに断念したけどな。
 
「四天守護家は、聖界の先導に立たなきゃなんねぇ族だからな。将来を約束されてる分、何かと諦めなきゃいけねぇことも出てくる。しゃーないって言ったら、しゃーないんだけどな」

「そっか…、螺月は今もループルは好きなの?」

「ああ。試合を観に行くこともあるんだ。今度一緒に行くか? 観ればきっと楽しいし、燃えるぞ。俺はプレイする方が好きなんだけどな」
 
 無邪気に語る兄はまるで子供のよう。
 まったく知らぬ一面を目の当たりにした菜月は、「うん」観てみたいと目尻を下げた。兄がそこまで楽しいというスポーツならば、一度拝見してみたい。聖界のスポーツ、ループルを。




[*前へ][次へ#]

7/28ページ

[戻る]


第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!