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05-06


 

「異例子は人間界にいることになっているのだぞ。もしも、中央区に行って異例子の正体がばれたら、それこそ一大事。民衆に混乱と好奇心を招く」

「だーかーら、ばれねぇようサポートするっつってるだろ? なあ、柚蘭」


 軽い口振りで同意を求める螺月に、柚蘭は笑み、郡是は溜息。
 蚊帳の外に放り出されている菜月は空笑いを零してた。もはや自分の入れる空気じゃない。


「それに聖保安部隊だって、以前菜月を連れて街中を歩いたそうじゃない」

「あれは聴取のために外に連れ出したのだ。西区だったというのもある。中央区の人口密度を知らぬわけじゃないだろう。鬼夜柚蘭、鬼夜螺月。異例子を外に出すのは危険だ。許可はできない」


 それだけではない、兄姉のお前達にだって影響が及ぶのだぞ。
 異例子が聖界に戻って来た、その事実を知っている鬼夜族内だけでどれほど質問等々を浴びせられているか。苦労を知らぬわけじゃなかろう。考えを改めた方が良いのではないか?
 
 郡是の辛辣な言葉に、菜月は寝耳に水だと瞠目。
 
 サッと兄姉の横顔を盗み見た。彼等は普段、家内では何も言わないが、鬼夜族内では何かと“異例子”のことで苦労を背負って…、少し前ならば思うことなど殆どなかったが、今は肩身が狭くなる思いだ。申し訳なく思う。
 「周りは周り。私達は私達よ」家族が大丈夫と言うのだから大丈夫なのだ、姉は意気揚々と口頭。それよりも末弟が家に引き篭もりがちになっている、それが心配なのだと不満を述べた。精神面でも健康面でも引き篭もりは良くないと主張。

「まず菜月を留守番させる方が不安よ。不遜な輩に襲われるかもしれないし、また攫われるかもしれないし、聖保安部隊に苛められるかもしれないし。菜月もやんちゃだから、何をしでかすか!」

「まったくだ。気苦労が絶えねぇ。留守番させて、もしもがあったらどうする? 前回のことだって、菜月が攫われてもすぐには聖保安部隊、察知できなかっただろうが。家にいても外に出ても危険度は一緒だ。仕事で家を空ける時でさえ不安なんだぞ、俺等」

「……、はぁ。聞く耳を持たん奴等だ。おい、異例子。貴様は自分がどういう立場か分かってる筈だ。それでも外に出たいか?」

 まさか立場を分かってないわけじゃないだろうな、的な眼で圧力をかけてくる郡是。勿論、立場は弁えているつもりだ。立場は。
 しかし本音を言うと、家に閉じこもってばかりでつまらないというのも…、「まあ外には出たいけど」立場もあるし、菜月はどっちつかずの返答をする。


「螺月と柚蘭の、メーワクにならない…程度なら、その、出掛けてはみたいと思うけど。駄目なら駄目で、仕方が無いから、家で留守番してるし」
 
「馬鹿、メーワクなんざ思ってねぇって」

「そうよ。メーワクなんていつも掛けられてるんだし。貴方のことで、どれだけ手を焼いたか」

「う゛っ、それはそれで…返す言葉もないんだけど」


 郡是は一変して驚愕。薄っすらと瞠目する。
 
 まさか、異例子が兄姉を気遣うような発言をするなんて。あれほど兄姉に嫌悪感を抱いていたのに…、そういえば最近、三兄姉の仲が改善されているような。多々そういう光景が見られる。例えば、よく兄姉と会話しているところとか。一緒に作業をしているところとか。兄姉に素の笑顔を見せているところとか。
 常に監視に立っている部下達も疑念を抱いていた。なにがどうなったら、手の平を返したように仲が改善されたのだろう…と。
 

 はてさて、余計な思考は置いておいて、どうするか。この状況。
 

 鬼夜族長の菊代が判断を下すまで、此方も安易な判断は出来ないが、やはり族長は自分と同じように許可を下ろさないのでは。そう考えるのが普通だしな。
 ふーっと息を吐き、頭痛のしてくる問題をグルグルと思案していると、玄関から開閉音が聞こえてきた。族長の下に行った千羽が戻ってきたのだ。彼はリビングキッチンに入ってくるや否や、郡是に歩み寄り、「これを」と巻かれた羊皮紙を差し出す。

 紐解いて中身を黙読する郡是は、見る見るうちに機嫌が低空飛行。
 盛大な溜息をついて、「何を考えてらっしゃるんだ」荒々しく羊皮紙を巻き戻す。そして郡是は三兄姉を一瞥、キョトン顔の彼等にまた大きな溜息をついた。つくしかない。本当に溜息しか出ない状況下に陥ってしまった。




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