02-07
「竜夜一族だけには、何が何でも戦闘を避けたいな。どの一族より苦戦を強いられそうだから。
とはいえ、北区(ノース・ブロック)に足を踏み込まなければ、下手をしない限り、この一族には会うことも無いだろう。四天守護家の数はそうはいない。せいぜい千人ちょいの一族だ。よっぽどのことが無い限り、管轄外のブロックに出向くこともないだろうしな」
「それでも全部合わせると四千人はいるんだろ? 十分に数はいると思うけどねぇ。しかも四天守護家に合わせて聖保安部隊もいる」
「それなのだよ。四天守護家の他に神官と呼ばれる者、聖保安部隊という優秀な部隊が聖界を護っている」
つまりは聖界全土が僕等の敵だな。
ネイリーは肩を竦めた。聖界に乗り込む限り、何処に行っても四方八方敵ばかり。それを心しておかなければなら無いだろう。上手いこと菜月とジェラールに会う手段があれば良いのだがそんな都合の良い話は無いだろうし。
「ま、とにかく今は聖界に行く手段を見つけないとねぇ」風花は重々しい空気を晴らすように手を叩いた。
ウダウダと語っていても仕方が無い。
まずは行く手を見つけ、それが見つかり次第、どうするか考えれば良い。彼女の意見に吸血も同意した。まずは行く手を見つけなければ。
それまで話を聞いていたあかりは、そっと口を尋ねた。「行く方法は見つかりそうですか?」
途端にネイリーの表情は強張り、風花は動きを止めた。どうやら見つかる兆しすら見えてこないようだ。彼等は揃って溜息をつき、シラミ潰しに探すと力なく笑った。
「友人繋がりで聖界に行く方法を探しているのだが、なかなか…なぁ。本気で聖界に行きたいと思う者も人間界にはそうはいないだろうし、難しいものだよ」
「ごめんな。ネイリーに任せっ切りで。一応、あたしも店繋がりで電話を掛けてはみたけど」
全然駄目だったと風花は肩を落とす。
あくまで“何でも屋”は受けた依頼をこなすだけの仕事。
“マスターキー”の職に就いているネイリーのように魔聖界と密接に関わっているわけではないため、収穫はまったくのゼロなのだ。ネイリーでさえ情報収集に苦労しているのだから、自分なんかが情報を容易に手に入れられるわけが無いのだが。それでも一抹の望みはあったのだ。一抹の望みは。
「役に立てなくてごめん」両手を合わせる風花に、「気にしないでおくれ」ネイリーは目尻を下げた。
行く手段はこちらが地道に探すから、風花は今できることをすればいい。できることを精一杯やればいいのだ。きっと行く方法が見つかれば、大いに風花の力が必要になるだろうから。
気遣い微笑し、風花は力強く頷いた。便乗するようにあかり達も話に加担する。
「私達も何かできる事があれば手伝いますから。些細なことでしょうけど、買い物くらいになら行けますしね」
「そーそー。パシリくらいにはなれるっすから」
「僕等にできることがあったら遠慮なく言って下さいね」
「喜んで協力するから!」
「ン。あんがとな、あんた達」
小さな心遣いに風花は胸が軽くなった。
こういう風に言葉を掛けられると俄然頑張ろうという気になる。自分は一人ではない。誰かに支えられて生きているのだと実感する。少し前の生活であれば、こんな支えもなく、またどうすることも出来ずにひとり孤独に過ごしていたことだろう。
聖界に戻ってしまった少年の言うとおり、自分はもう一人ではない。一人でも独りでもないのだ。
けれどやはり、一緒にいたいと思う好きな相手は一人しかいないから。一緒に過ごしたいと思う友人は一人しかいないから。前の生活を取り戻すべく、自分は行動するのだ。
また前のように、皆で笑って過ごしていたあの楽しい日々に戻るために。
話が打ち切られるようにスケルちゃんが客間に入ってくる。頭には青鬼のカゲぽんが乗っかっていた。
スケルちゃんはカクカクカクと歯を鳴らし、皆に夕食ができたと教える。『今日はシチューなんだじぇ!』元気よく教えてくれるカゲぽんに一笑し、客間から食堂へと移動する。あかり達にも食べていかないかと誘ったため、皆で夕食を取ることとなった。
こういった小さな時間が今の風花にとって、またネイリーにとってかけがえのない楽しみの一つとなっていたことは言うまでもなかった。
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