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01-13


  

「俺がお前の弟くんを貶す奴だとでも思うか? お前の大事な弟くんなのに、貶すわけないだろ。失礼な奴だな。寧ろ会って話してみたいよ、菜月くんに。なんたって人間界のことをよく知ってそうだからな! 良いよな人間界。俺は大好きだ。彼から話を聞いてみたい」

 子供のように目を輝かせ、異例子を名で呼んでくれる朔月に螺月は自然と目尻を下げた。
 彼のような態度をするものはとても稀少。兄として嬉しいこと限りなかった。

 改めて家に行っても良いか、朔月が螺月に尋ねると彼は小さく首を縦に振った。

「家には監視の目があるけどな」

 そう耳打ちして。
 大理石で作られ等間隔に並べられた柱を視界に入れながら回廊を抜け、西大聖堂を後にする。

 周囲の目を気にしなくなった途端、「疲れた」と、螺月は大きな伸びをして頭の後ろで腕を組んだ。
 不機嫌面を作り、今日も同情や冷やかし等々でよく声を掛けられてしまったと朔月に愚痴る。

 菊代の配慮のおかげか、異例子が聖界に戻って来た翌日に比べれば随分声を掛けられる数も少なくなったが、それを置いても掛けられる声は多い。

 皆、異例子という少年がどうなったのか興味があるようだ。 

 そりゃそうだ。
 異例子は鬼夜内をいや聖界全土を揺るがせた少年。

 戻って来たとなれば、今後どうなるのか。どう生きていくのか気になることだろう。悪魔と同居していた噂のこともある。
 さぞ異例子は話題作りにもってこない人物だろう。

 しかし家族側としてみればいい迷惑だ。

 異例子がどうなろうと、自分達が末弟とどう関わっていこうと、周囲には関係のないことではないか。何でもかんでも首を突っ込まないでもらいたい。

「ほっとけって話だよな」

 ムスッと眉根を寄せる螺月に朔月は大変だなと心中で同情しつつも、彼の望む言の葉ではないと分かっていたため別の言葉を掛けてやる。

「でも一緒に暮らせて良かったじゃないか。お前、毎日のように弟くんを心配してたし。少しは安心だろ?」

「まあな。ただ関係に溝はできたままだ。あいつから俺達に話し掛けることなんて滅多にないしな。家事とかはしてくれるし、飯もどうにか一緒に食ってくれるまでにはなったけど、俺等と顔を合わせないよう極力部屋に引き篭もっている――まるでガキの頃のような生活をあいつは送ってやがる。気を遣っているのも一理あるかもしんねぇ」

 そんな気遣いはいらないのだが、今は好きにさせておこうと思う。そっとしておいてやろう。 
 それが自分と姉で出した結論だと螺月は語る。こちらから話し掛けることはあれど、生活面に対して強要することは必要最低限を抜いてしないでおいてやろう。
 変に刺激をすれば溝は深くなるばかりだろうし、菜月は菜月で傷心を抱いている。

 何より、まだ生活を始めて二週間ちょい。上手くいかなくて当たり前なのだ。
 昔の生活は七年間、毎日のように菜月を無視していたり、時に八つ当たりをしていたりして日々を過ごしていた。

 それに比べたら二週間なんて小さいものだ。

「とにかく今は戻って来てくれたことに安心している。罰も一切の自由の拘束だけだ。命の危機に曝されなくて良かった。本当に良かった」

 もしも、と考えるだけで身の毛が逆立つ。
 二の腕を擦る螺月は心の底からホッと安堵の息を吐いた。 

「そういえば柚蘭さんは良かったのか? 一緒に帰る予定とかじゃ」

「あいつとは街正門で落ち合う約束なんだ。一足先に仕事を終わらせて病院に寄ってる。母上のことが心配なんだろ。勿論、俺も心配だけどここしばらく、多忙だったしな。俺を待ってから病院に行くと日が暮れちまうから。夕刻には帰るって菜月に言ってるし……」

「菜月くんはそのことを」

「菜月の前じゃ母上の話題は厳禁だ。あいつは母上に捨てられている。俺があいつの立場だったら名前を聞くだけで腸が煮えくり返りそうだ。俺達と一緒に暮らすのも本当は憎くて仕方が無いのかもしんねぇ」

「螺月」

「けどな、やっぱ大事な弟なんだ。放っておけねぇんだ……だからこれから頑張ろうと思うんだ」

 復縁できるように努力していく。
 表情を崩す親友に朔月は一つ笑みを向けてやる。

「お前ならやれるよ」

 ずっと自責し悩み苦しんでいた親友を知っているため、朔月はどうか復縁できますようにと心中で祈った。
 でなければ親友が報われない。

 少しでも報われて欲しい。朔月は何度も心の中で祈った。




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