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02-05



「量が少なくて申し訳ない。なにぶん、菜月は聖界の中では非常に名が知れた有名人。背景に四天守護家がいるため、なかなか情報が仕入れられないのだよ。また何か入ったら教えるから」

「十分だよ。菜月が酷いことされてないって分かっただけでも安心だから。だけど、ジェラールの方は残念だったねぇ」
 
 親友のネイリーとしては是非とも手に入れたかっただろう情報を手に入れられず、さぞガッカリした気持ちを抱いていることだろう。

「友人が無事なだけでもプラスだよ」

 次はジェラールの情報を手に入れられるよう、裏情報屋に掛け合ってみると微笑んだ。

 前向きな発言に風花も微笑を返す。
 そうだ、何事もプラスに考えていかなければ。後ろ向きに考えても前には進めない。何事もプラスに考えるネイリーをもっと見習わなければ。

 口には出さなかったものの、風花は強く思った。
 

「ねえねえ、聖界って天使とかが住んでる世界なんでしょ? どういう世界なの?」


 風花の手当てを終え、後片付けを始めた手毬が疑問を口にする。

 具体的に聖界とはどういう世界なのか、話を聞いていてもイマイチ掴めない。
 魔界などを嫌っていることは状況でよく分かったのだが、一体どういう世界なのかは曖昧なところがある。

 手毬の疑問に答えるべく、ネイリーは情報の載っている書類を裏返した。

 いつも持ち歩いている万年筆を取り出すと大きな円を一つ描く。更に中心に一つ円を描き、それを軸に大きな円を四等分にする。


「大まかなことを言うと聖界は五つのブロックに分けられている。人間界でいう大陸だな」

 
 たった五つの大陸しかないと思うだろうが聖界の人口は人間界の人口と大差がない。殆ど人間界と同じ人口だ。

 ということは分かれている五つのブロック一つひとつが非常に広いことが分かるな。

 大きく違うことは人間界では大陸の中に多数の国があるが、聖界では町々が存在するだけで国という国が存在しない。
 聖界自体が一つに纏まりやすいようブロックに分かれているものの、そこに国という国は存在しないらしい。

 代わりに各四天守護家がブロックを支配していることになる。

 ウム、これは追々説明しよう。
 

 まずは聖界内部の仕組みだが。

 始めに書いた大きな円が聖界全体だとしたら、内の中心円が中央区(セントエラル・ブロック)というブロックとなる。

 聖界の中央にあるブロックで聖界の国都だ。
 此処には中央大聖堂という場所があり、四天守護家の長や幹部、大神官が此処に集結する。
 
 また中央大聖堂の隣には輪廻大神殿という神殿がある。此処で“聖の罰”という聖界一神聖な儀式が行われる。
 
 仮に菜月やジェラールがそれを受けることになるのならば、この輪廻大神殿で行われるだろうな。

 ネイリーは円に中央大聖堂の名と大神殿の名を書き込んだ。


「ちょい待ち」


 風花が質問があると挙手した。「なんだい?」ネイリーが聞き返すと、風花は眉根を潜めた。


「菜月はさ。大聖堂って場所で“聖の罰”を受けたって言ってたんだ。だからあいつ、聖堂とか教会とかが駄目になったって言っていたんだけど…、神殿なんて一言も聞いちゃないよ? もしかして菜月、神殿と聖堂をごちゃ混ぜにしちゃってる?」

「いや菜月の証言は正しい。確かに十年ほど前までは中央大聖堂で儀式が行われていた。菜月が聖堂で受けたって言ったことは間違いではない。
しかし、ここ十年で聖界も状況が変わったようだ。大聖堂という場所より、もっと大きな場、ここでいう神殿で儀式を行った方が良いと思ったのだろうな。今は輪廻大神殿という神殿で儀式が行われている」


 「どちらにせよ聖界に行くに関して、此処だけは避けなければならないエリアだ」とネイリーは語る。
 聖界のトップ達が蠢いているエリアなのだ。幾らなんでも足を踏み込むには無謀過ぎる。個々人の力で乗り切るには困難極まりない。

 次にネイリーは四つに分けたブロックにそれぞれ方位を書き込み始めた。


「南北東西に分けられたブロックにはそれぞれ四天守護家が管轄している。北は竜夜、南は虎夜、東は狐夜、西は鬼夜。菜月やジェラールがいるであろう場所は西区(ウエスト・ブロック)だ」
 

 つまり自分達が聖界に辿り着いた際、目指す場所は西区になるのだとネイリーは語る。

 大まかだが聖界はこのように五つのブロックに分けられた世界。しかし実を言うと四天守護家が管轄外としているブロックが複数存在している。
 それがセントエルフの村だったり、聖(ひじり)の果てだと言われている森だったり、人魚達の楽園と呼ばれた場所だったり。

 大きな円の周りにポツポツと円を描いた。実際に聖界は統一を目指しつつも、こうした対象外の地域もある。聖界に乗り込むならばまずは此処を目指し他方が良いかもしれない。

 此処ならば四天守護家はいないだろうから。


「問題は聖界本土だ」

 ネイリーは中心として考えるのは大きな円の世界だと、万年筆の先でそれを指した。


「残念な事にどのブロックにも必ず四天守護家が存在する。なるべくは鉢合わせしたくないのだが…。
避けては通れない道かもしれない。何せ、僕等は魔界人。どう努力しても放出する魔力を抑えることは出来ない。聖界に乗り込めば、魔力の質が異なる僕等が魔界人だと分かってしまうだろう。一般人ならばどうにかなるかもしれんが」

「絶対に四天守護家は避けられないだろ」

「ウム、それはそうなのだが…。天使の名を聞けば四天守護家であるかそうではないかは分かるのだがな」


「名前って何さ?」

「それぞれ一族は苗字が統一されているのだよ、フロイライン。それだけではない。名前も統一されている。苗字を聞かずとも名で四天守護家かそうでないか判別できるんだ」

 
 どういう意味だと首を傾げる風花にネイリーは分かりやすいように菜月の家族を挙げて説明を始めた。
 ちなみにあかり達にも分かるよう、日本語と魔聖語の両方で名前を書き綴っていく。




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あきゅろす。
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