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02-04


 
 他愛もない話をしていると部屋に救急箱を持った手毬が入って来た。
 一緒にネイリーも部屋に入ってくる。ネイリーは書斎で仕事をしていたらしく、「ひと段落ついた」と肩を叩いていた。あかり達はネイリーに挨拶し、風花はお疲れと言葉を掛けた。そんな風花の手を取り、ネイリーはウットリと悪魔を見つめた。

「疲れた体を癒すには君の力が必要さ。フロイライン。さあ、僕とっ、ぐはっ!」
  
 「喧しい」風花はネイリーの鳩尾にストレートパンチを入れる。
 前髪をサラッと弄くりながら吸血鬼は床に伏す。阿呆だと皆が皆思う中、吸血鬼は直ぐに復活。「照れ屋さんだな」持ち前のポジティブを見せてくれる始末。今日もネイリーは絶好調のようだ。
 

「そうだ、フロイライン。最近の菜月の様子が分かったぞ」

「え?」


 手毬から腕の手当てを受けていた風花は不意打ちを喰らい、間の抜けた顔を作る。それはあかり達にも同じ事が言えた。揃って瞠目する。

 ネイリー曰く先程まで仕事をこなしていた内容は、実は聖界の情報を裏情報屋から提供してもらっていたというもの。
 裏情報屋とは情報屋と違い、公表されていない裏の情報を仕入れてくる者達を指す。依頼料は通常の数倍跳ね上がるがここは“マスターキー”として、また風花のために、ネイリーは情報を提供してもらったと微笑を向けた。
 
 「ジェラールの分も頼んだんだが」残念なことにジェラールの情報は一切入ってこなかったとネイリーは落胆の色を見せる。裏情報屋が情報を仕入れられないほどジェラールは四天守護家の手中にいるのだろうか。まったくの謎だ。
 
 しかし菜月のことなら分かったからと、懐から一枚の書類を取り出した。「読んでよんで」強請る風花に頷き、ネイリーは早速書類に目を通し始めた。

 
「ウム。菜月は身の上の一切を鬼夜直下・第五隊聖保安部隊に拘束されているらしい。簡単に言えば監視されているようだ。しかし監視されながらも人並みの生活を送っているらしいぞ」
 
「良かった。酷いことされてないんだねぇ」


 ホッと風花は胸を撫で下ろす。
 聖界では忌み嫌われていたと言っていたため、また自分と繋がったことで四天守護家の掟を破ってしまったため、聖界でどうしているのか、ちゃんと生活できているのか、色々と不安だったのだ。
 人並みの生活を送れていると聞き風花は安堵の息を漏らす。


「ただ…、気になるのは菜月が兄姉と同居しているという点だな。これによると兄姉が菜月を引き取ったようだ」

「菜月が姉貴兄貴と暮らし始めたって? マジで?」


 素っ頓狂な声を上げる風花に対し、「大丈夫なんでしょうか」あかりは眉根を寄せた。
 「なんで?」冬斗は首を捻った。身内に引き取ってもらえれば少しは安心ではないか。他人よりかはマシな扱いをしてくれる筈だろう。ご尤もな意見にそれはそうなんだけど…、とあかりは目を泳がせた。
 

「実は菜月くん。家族と昔からいざこざがあって…、不仲なんだよね。前もそれで一騒動あったくらいだし」

「先輩の家族ってみんな天使なんだろ?」


 冬斗の問いにあかりは頷く。
 菜月の家族は育ての親である祖父も含めて皆、天使。けれども菜月だけが人間として生まれてしまい、兄姉から嫌われたり、母親に捨てられたり。
 今は兄姉が菜月の身を心配しているようだが、少年自身兄姉を極端に拒んでいる。その身内と暮らし始めたなんて。

 「大丈夫かなぁ」あかりの心配に、「大丈夫だろ」風花は断言した。


「あいつ等は菜月を弟として何かと心配してるからねぇ。危害は加えないだろうし。菜月の方も、同居については嫌だとは思うけど大丈夫と思うよ。あいつ等と一緒なら、あたしもちっと安心だよ」


 何度も対立はしてきたが、彼等は悪い天使ではない。根は良い奴等だ。ぶつかってきたからこそ、それは手に取るように分かる。
 風花は大丈夫だろうと判断した。寧ろ何処かで必要なのかもしれない。溝ができてしまった家族仲を修復するには、同居という些細な時間が必要なのかもしれない。菜月も心の片隅では家族を想っている。それを風花は知っている。

 自分が聖界に行くまでに少しは仲が修復しているといいな。願い想いながら風花は情報はそれだけかと尋ねる。「今のところは」ネイリーは頷いた。




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あきゅろす。
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