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02-03


 
(※林道風花・愛の妄想劇場)
  
 
 その日、少年はいつも自分に優しくしてくれている女天使から告白を受けた。
 しかし少年は顔を顰めた。この気持ちが迷惑なのか、女天使が尋ねれば少年は彼女に背を向けて身を震わせた。


「ごめんよ、俺は周囲から疎まれている異例子。天使から産まれた人間なんだ。君とは結ばれない。人間界でも愛した人を置いてきてしまった。もう人を愛したくないんだ。俺は愛せないんだ」

「何を仰いますの。貴方が異例子だなんて関係ない。私は貴方を愛している!」
 

 女天使の悲痛な訴えにも少年は目を背けるばかり。すると女天使は彼の背中にピタリと寄り添い、少年に訴えた。
 

「例え貴方が愛してくれなくても私は貴方を愛すわ。だって貴方のことを愛してしまったのだから。これが禁忌だと言われるのならば、私は禁忌を犯しましょう」

「だめだ。俺はもう禁忌を犯して人を傷付けたくはないんだ」

「人間界に置いてきた愛した方を想ってらっしゃるのなら、私が忘れさせてあげる」

 
 何もかも忘させて、それこそ喪う恐怖さえも忘れさせてあげるのだと女天使は言った。そう自分の愛で傷を癒してあげる。と。



 少年は戸惑い怖じながらも女天使の方へと振り返り、そして恐る恐る彼女へと手を伸ばし―――……。



「天使は悪魔以上に悪女だぁあああ! 清純振りながら菜月に近付いてッ、あたしを忘れさせるとか、忘れさせるとか、忘れさせるとかぁああ! チックショウ! 禁忌っつーならあたしと菜月だって負けてないしっ、わぁあああ! 負けてたまるかぁあ!」
 
 
 「わぁあああ!」風花は自分の妄想の女天使に嫉妬心を抱き、ソファーの背に何度も拳を入れ始めた。その場にいたあかりを含む冬斗、そして雪之介は心底思った。考え過ぎにも程があるだろう、と。

 しかし放っておくとソファーを壊しかねない。あかりはわたわたと慌てながら、風花を励ます。
 
「菜月くんは風花さんしか眼中に無いと思いますよ。第一、菜月くんは天使嫌いじゃないですか」
「そりゃそうだけどさ。どー転ぶか分かんないじゃないか」

 どこからとも取り出した真っ白なハンカチをギリギリと噛み締める風花に、「奪われたら取り返せばいいんです」あかりは大胆な発言をした。


「いいですか、風花さんは菜月くんと付き合いが長いんですよ? 仮に別の女に目移りしたとしても、風花さんがどどんと現れれば、そりゃ菜月くんは風花さんの方にいきますって。それに風花さんは菜月くんと別れたつもりないんでしょ? まだ恋人だと思ってるんでしょ?」


「そりゃ思ってるよ! あたし、別れるなんて一言も言ってないし!」

「だったら略奪愛を仕掛ける女天使を突き飛ばして奪い戻せばいいんです」

「奪い戻す?」

「奪い戻すんです。菜月くんは風花さんにゾッコンじゃないですか。女天使なんて目じゃないですよ」


 キランと目を光らせるあかりに、風花もなるほどと手を叩きそりゃそうだと頷いた。
 「所謂、略奪愛返しだねぇ」うんうんと納得する風花に、「そうです、略奪愛返しです」あかりもうんうんと納得した。すっかり蚊帳の外にいる冬斗と雪之介は思った。略奪愛だの略奪愛返しだの、女って恐ぇ…と。
  



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あきゅろす。
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