01-18
「あの子は監視の身の上、確かに生意気な口を利く菜月が気に食わないのは分かる。でもだからって暴力を振るって良い話じゃないわ。監視の身の上だからって何をしても許されるのかしら」
それともこれが聖保安部隊の監視のやり方?
それともあの子が人間で異例子で化け物だから暴力を振るったのかしら? あの子が純粋な天使だったら、それなりの扱いをしてくれたのかしら?
「同じ立場にいる天使が仮にいたら、あの子のような扱いを受けていたのかしら?」
「怒りはご尤もだが、こちらは受けた命令以上のことはしない。相手が例え異例子であろうと、今までそうしてきたつもりだ」
「だったら何故、私達の見ていないところでこんな真似をするのっ。今日だけじゃないのよ、菜月が暴力振るわれていたのは。こんなやり方、あまりにも卑怯よ!」
どれだけショックだったと思っているのか。柚蘭は顔を歪めた。
てっきり今日も、いつものように素っ気無く、嫌悪交じりの眼を向けながらも「おかえり」と挨拶をしてくれるものだと思っていたのに。帰って来てみれば家族が傷付けられそうになっていたなんて。
しかも信頼を寄せていた聖保安部隊に。
「何処かで信じていたのよ、郡是隊長。聖保安部隊は異例子に嫌悪感を抱いても、それなりの扱いをしてくれるって。買い被り過ぎてたわ。そうよね。聖界は四天守護家であれ聖保安部隊であれ一より百を助ける思想を持っているから。私達のように一の立場にいる人達には優しくなくて当然よね」
郡是の隣で聞いていた千羽は途方に暮れた念を抱く。
千羽自身も聖保安部隊を信じていた。四天守護家が誇る聖保安部隊は例え嫌悪感を抱く罪人であろうと、それなりの扱いをする組織なのだと。
差別という意識を持っても、それを行動に移すような組織ではないのだと思っていた。弱い立場にいる者達は守っていく組織だと思っていた。
(これが聖界の現状なのか)
セントエルフの言葉が脳裏に過ぎった。
「あの時、俺等が偶然帰って来たから最悪の事態は免れた」
それまでダンマリだった螺月が組んでいた腕を解き、ゆっくりと姉の隣に並ぶ。
ギッと郡是を睨み螺月は姉以上に机を強く叩き、激しい音を室内に響き渡らせた。
「けどなっ、場合によっちゃ死に至らしめていたんだぞ。そしたらてめぇ等はどう責任取るつもりなんだッ! あいつに、俺等に、どう責任取ってくれるつもりだったんだ!」
螺月の大喝に千羽は胸が締め付けられる思いがした。
死に対してどう責任を取るか。それは今の自分にも同じ事が言える。事故死であれセントエルフを死に至らしめた。
自分に責任が無いとは言いきれない。ではその責をどう負うつもりなのか。
目を伏せる千羽の隣で、郡是は頭を下げた。
部下の失態は自分の責任だ。今後そのような事が無いように努力する。
「まさか…てめぇ等グルか?」
螺月は疑念を口にしてきた。
「何だかんだ謝罪しておいて隊長命令じゃないだろうな。だったら話は別だが」
「ちッ、違う! 郡是隊長はそういう方じゃない! 自分も隊長も今日の報告で初めて知った。こちらはセントエルフの一件で」
「千羽。いい」
「しかし」
「弁解したところでそれはただの弁解に過ぎない」
郡是は千羽の言葉を制し、部下達には厳重な処罰を下しておくと、異例子にも後日隊の長として詫びをすると二人に約束した。
柚蘭も今後菜月の口と態度の悪さを直すよう努力していくと約束した。
そして付け加えるように柚蘭は郡是に言った。
「菊代さまには報告しないわ。ここで止めておきましょう。騒動を大きくしてもお互い困るでしょうし。だけど私は今回の聖保安部隊の仕打ちを許そうとは思わないわ。貴方達は私達が踏み込んで欲しくない家族問題の領域にまで足を踏み込んで暴言を吐いた。それどころか家族を傷付けた。許そうと思えない。本当に残念だわ、聖保安部隊がここまで落ちた隊だったなんて。私は聖保安部隊を買い被り過ぎていたわ。結局、聖保安部隊も周りと同じ類の人達なのね」
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