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09-20


 
『殴らないでけんろぉ! おらぁ、坊主の顔は知んねぇけんどぉ、異例子の名前なら聞いたことあるだぁ。二十年前と十三年前に、聖界で話題になった子だんろぉ? 天使から生まれた人間だってぇ騒ぎになっただぁよな?』

「河吉、なんでそこまで知ってるわけ? あんた妖怪だろ? 魔聖界のこと、あんま知らなさそうなんだけど」


『おらぁ、此処に何十年も住んでけんどぉ、此処は便利な場所でなぁ。たぁーくさんの魔力が入り乱れてるせいでぇ、聖界や魔界の様子を見ることができるんだぁ。此処は魔聖界にも人間界にも繋がってるからなぁ。
おらぁ、暇潰しによく魔聖界とか人間界を見ているだよぉ』
 

 だから最近の聖界の様子や魔界の様子、人間界の出来事などなど知っていると河吉は胸張って告げる。

 瞠目したのは風花とネイリー。
 

 魔聖界の様子を見る事ができる、だと。

 
 ということは自分達が会いたがっている人物達の様子も見る事ができるのではないだろうか。
 風花は河吉に詰め寄り、聖界の様子を見せて欲しいと頼み込む。どうしても聖界の様子が知りたいのだ。そして出来ることならば、自分達の知る人物達の様子を見ることはできないだろうか。

 何度も頼み込むと河吉はあっさり承諾してくれた。
 『困った時はお互い様だしなぁ』情けを掛けてくれる河吉はカウンターの扉を開け、中に入るよう誘導した。
 
 「あんがとう」風花が真摯に礼を口にすると、河吉はケラケラ笑う。後で風花の赤肌を見せてくれたらそれでいい、なんて冗談なのか、本気なのか、ケッタイなことを言ったため風花は殴りたくなる衝動に駆られた。

 それを止めたのはネイリーだった。折角親切心を見せてくれているのだから、ここは抑えて、と言われれば振り上げた拳を下ろさざる得ない。

 
 河吉に連れられ、厨房の奥へと進む。

 
 すると目に飛び込んできたのは大きな岩穴の空間、そして空間を占める大きな泉。澄んだ泉は底まで見える。この泉を使って魔聖界を見るのだと河吉は説明、泉前で一つ足を鳴らすと瞬く間に水面が眩く光り始めた。
 蒼く光る水面はじわりじわりと表面から映像を映し出す。薄っすらと、次第にはっきりとしてくる映像。


 賑わいの声が聞こえてくる。


 純白のローブを身に纏っている通行人達の映像が映し出されていく。賑わっている出店、立派な時計塔、聖堂。
 風花は目を輝かせた。パソコンの画像で見せてもらったが、聖界の街並みはこうも綺麗なのか。
 まるでヨーロッパのような街並みだ。レンガ造りの家々に橋、街路灯、どれも魅力的な風景。魔界とは大違いだ。
 
 凄い凄いとはしゃぐ風花、これは素晴らしいと絶賛するネイリー、カゲぽんに至っては住んでみたいと言う始末。
 各々の反応に笑う河吉だったが、やや表情を曇らせ、一つ問題があると口にした。嬉々を霧散させ、問題とは何だと尋ねる。河吉は風花の赤肌、と口にしそうになるが笑顔で風花に拳を見せられたため、素直に問題点を教えた。

 問題点。それは聖界を見ることはできても特定の場所を見ることはできないという点。
 つまり、自分達の会いたがっている人物達の様子を容易には見られないと言うのだ。今見せている映像も、ミステリーデスゾーンの魔力の影響により、たまたま映し出された場面だと言う。

 けれど方法が無いわけではない。
 様子の見たい人物のオーラを自分に渡してくれれば、その人物の様子を見せてやることができる。


 一番はその人の髪や爪。

 その人自身のものだから、すぐに発見できる。それがなければその人が身に付けていた物。曰く、物にもその人のオーラが纏うそうだ。

 
 風花は落胆の色を見せた。そんなもの一つもない。
 生憎、少年やセントエルフが身に付けていた衣服等は置いて来てしまった。そりゃ何かあった時のために少年のためのカッターシャツやジーパンは用意しているが、真新しいものを持ってきてしまった。
 
 『そっけぇ』河吉はぬか喜びをさせて申し訳ないと謝罪してくる。
 勿論河吉が悪いわけではないため、風花は気にしないで欲しいとやんわり笑みを返した。聖界の様子を知れるだけでもマシなのだ。今、聖界がどうなっているのか、知っておくだけで随分自分達の行動が楽になる。

 フウム、ネイリーは風花の身形を眺めていた。

 ジェラールのオーラを探し出すことは不可能だろう。友であれど身に付けていた物を持つというような関係ではなかったから。しかし風花と菜月の間では、何かしら可能なものがありそうなのだが。折角なのだ。風花を喜ばせてやりたい。

 と、ネイリーは風花の耳に飾っている青いダイヤのピアスに目を向けた。




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あきゅろす。
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