09-19
さてさて―。
ミステリーデスゾーンで出逢った河童の名前は河吉と言うらしい。
ちなみに“河童の河吉”と本人は名乗ったのだが、河童の、は苗字らしい。
曰く、河吉はミステリーデスゾーンで店を開いている変人さんだとか。
こうやってミステリーデスゾーンに迷い込んできた人達をもてなしているらしく、迷い込んできた風花達のためにせっせとラーメンを作ってくれた。おまけとして炒飯まで付けてくれる。
スケベではあるがなかなか親切な河童のじいさんである。罠を仕掛けているわけでもなさそうなため、三人は喜んでご馳走になった。
「こんなところでラーメンが食えるなんてねぇ。あ、なんでラーメンにきゅうりが。こっちの炒飯にもきゅうり…。まあ、いいけどさ」
「ウム、美味だ。塩ラーメン。きゅうりが浮かんでいるがそれさえ今は美味に感じる」
『それだけ食べてなかったんだじぇ! 美味いうまい』
三人はラーメンを啜りながら河吉を見やる。
河吉のトレードマークのお皿の上にはドデカイたんこぶが数個できていた(勿論、風花が拳骨をかましてデキたたんこぶだ)。河童のお皿は確か、割れたら死ぬと伝説として言われている。一種の説には力を失い衰弱してしまうそうな。
風花が加減して皿を割らないようにはしたようだが、それにしたってたんこぶは痛そうだ。
河吉は河吉であまり気に留めていないようだ。お玉と中華鍋を持って餃子はいるかと尋ねてくる。ネイリーとカゲぽんはラーメンと炒飯で十分だったのだが、風花が頼んだため、餃子も大皿で追加された。
こうしてたらふく食事を堪能した三人は、それを済ますと改めて河吉と会話を交わす。
ミステリーデスゾーンに身を置いている河吉に尋ねたいことは沢山あった。何故、こんなところで店を開いているのかだとか。聖界まで後どれくらいまでなのかだとか。一人で店を切り盛りしているのかだとか。矢継ぎ早に河吉に尋ねると、『落ち着くだよぉ』河吉の方が質問の多さに参った様子だった。
河吉に詫び、一つずつ質問を投げ掛けることにする。
「ねえねえ。河吉、なんで此処で店を開いてるわけ?」
『ミステリーデスゾーンは色々あっからなぁ、何かと休憩場所があった方がエエんじゃないかと思って開いてみただぁ』
ちーっとも利益は出ないけれど、店は楽しいと河吉は笑った。
しかしあまり客は来ていないようだが…。敢えて言うならば、河吉が故意的に店の隅に置いた皿のきゅうりを食べに、ねずみがやって来ているくらいのようだが。料理が不味いというわけではないのだが、こんなところに足を運ぶ客などそうはいないだろう。
もっと別の場所で店を開けばいいのに。風花は片隅で思ったが口には出さなかった。
次に聖界のことを尋ねる。
後どれくらいで聖界に行けそうか、聖界への抜け道を知っているか、河吉に尋ねると彼は素っ頓狂な声を出した。
『おめぇ等、若ぇってのに聖界に行くのけぇ? あんそこは、悪魔とかぁ、魔物とかぁ、嫌ってる所だぁ。魔界人は歓迎してくれないだよぉ?』
「重々承知の上なのだよ。しかし敢えて僕等は聖界に行きたい。大切な者達がいるから。河吉はこの子を知っているだろうか?」
と言うと、ネイリーは鞄の中からノートパソコンを取り出した。
普通のパソコンと違い、どのような場所でも使える魔力の宿したネイリーのノートパソコンはミステリーデスゾーン内でも用意に作動する。
何度かキーボードを叩いた後、出力した画面を河吉に見せる。その画像は異例子と呼ばれる少年だった。
「異例子という子なのだが」この子と、もう一人の友人を迎えに行きたいのだと河吉に説明。
眼鏡を掛け直し、目を凝らしながらパソコン画面を睨む河吉はアーッと手を叩く。風花は知ってるのかと身を乗り出す。
『んにゃ知らんだぁ』
「……。ちょ、じゃあさ、ややこしい反応しないでくれる?」
拳を見せる風花に河吉は慌てて言葉を続ける。
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