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09-18


 
 ミステリーゾーンは相変わらず殺伐とした空気を放っている。
 そして自分達を導いている光の筋は、相変わらず視界の利かない暗闇の向こうに続いている。

 コツコツ、ジャリ、足音を鳴らしながら二人はミステリーゾーンを突き進む。
 始めは一本道だったミステリーゾーンもやがて二つに分かれ、奥に進むに従って枝分かれしていた。エグザクトコンパスを持っていなかったら、確実に迷っていたであろう。

 つくづく辰之助からコンパスを受け取っておいて良かった、と思い改めながら二人は足を動かす。
 
 あれからも、ミステリーデスゾーンの脅威が自分達の身に降り注いで大変だったのだ。
 歩いていていたら突然大飴が降ってくるし(雨でなく飴玉が降ってきたのだ!)、デスゾーンの魔力で凶暴化した獣が見境なく襲い掛かってくるし、度々幻を見せられるし、とにもかくにも散々な目に遭っていた。

 ただの戦闘ならまだしも、予想もつかない出来事が自分達の身に降り注ぐため、思った以上に疲労が溜まっていた。
 

 約丸一日歩いているため空腹も感じ始めたのだが、安易に休息を取ると痛い目に遭うため、歩みを進めるしかない。
 

 後どれくらい歩けばミステリーデスゾーンに辿り着くのだろうか。
 風花はネイリーに辰之助のメモに何か記していないかと、質問を投げ掛ける。吸血鬼は懐からメモ紙を取り出すと、風花の召喚した光玉の光を頼りに走り書きされている文を斜め読みする。
 「三日は掛かったそうだぞ」覇気のない声で答えを返してきてくれたため、風花もゲンナリしてしまった。三日もミステリーデスゾーンを彷徨うなんて。だったら尚更何処かで休息を取りたいのだが。

 カゲぽんは空腹を度々訴えてくるし、特に吸血鬼は疲労が見え隠れしている。

 魔界で過酷な生活を強いられていた風花に対し、人間界で生ぬるい環境で生活をしていたネイリーの方が疲労するのも早いのだ。生まれ育った環境が違うため、それは仕方の無いことだと思う。
 決して口にしないが、そろそろネイリーも休息を取りたい筈。風花は吸血鬼を気遣い、何処かで休める場所はないかと歩きながら、周りをぐるり。 

 いくつか横穴はあるものの入るのに躊躇する。休めそうな場所ではなさそうだ。どの横穴も見るからに何か出そう。
 

 ほら、前方の右横穴などのれんが…、のれん?
 
 
 風花は思わず歩みを止めた。ネイリーも歩みを止めてしまう。
 思わずのれん前に立ち、目を細めてしまった。のれんの隣には立て札が、魔聖語で『休憩所』と書かれている。何だこれは、もしかしてミステリーデスゾーンが仕掛けた新たな罠か? それとも嫌がらせか?
 
 しかし、のれん向こうから何やら良い匂いが。
 途端に風花は腹の虫を鳴らす。飲まず食わずで一日を過ごしていたのだ。何やら食欲の誘う香りが漂ってくるのならば、腹の虫も大きく鳴き始めるというものだ。
 二人は顔を見合わせ、罠承知の上で入ってみるかと意見。
 一致したため、二人は影の中にいるカゲぽんに声を掛け、のれんの向こうに足を踏み入れた。
 

 ―――…のれんの向こうに待っていたのは、店らしき風景でした。
 
 
 壁や天井は岩肌が剥き出しになっているが、椅子やカウンター台などが設置されている。カウンター向こうには小さな厨房が。火に掛けられた寸胴鍋からは何やら良い匂い。
 こんなところに店があるなんて。呆気に取られていると『いらっしゃいだぁ』厨房奥から訛った口調が飛んで来た。
 
 二人は厨房から出てきた相手にまた度肝を抜かされる。
 
 現れたのは、お皿がトレードマークの可愛らしい…とは言い難い河童。
 牛乳瓶のような厚底眼鏡を掛けている、老いた河童が厨房奥から出てきたのだ。
 お客なんて久しぶりだと笑う河童は風花の姿を見るや否や素っ頓狂な声を上げた。何か自分に問題でもあるのか、後退する風花に対し、河童はでへっと笑みを浮かべた。


『ねーちゃん、老いたおらぁのために赤肌見せてけんろぉ!』


 ビシッ―。

 風花は石化した。隣に立っていたネイリーは額に手を当てる。
 はじめましての挨拶がこれだなんて。

『なあなあ、あかはだって?』

 影から出てきたカゲぽんがネイリーの方に乗っかりながら尋ねる。ぎこちなくネイリーは答えた。「裸のことだよ」
 
 はぁはぁしている河童に、息を吹き返した風花は太い青筋をこめかみに立てた。
 さすがはミステリーデスゾーン。つくづく不思議で謎で未知なところだが、こんなところまで来て、まさかこーんな河童に出会うなんて予想していなかった。

 キランと笑顔を作りながら、風花は次の瞬間怒声を張り上げた。


「このスケベ河童ジジイィィィィ!」





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あきゅろす。
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