09-17
『ネイリー。お帰りなさいん!』
『ただいま、可愛らしいジェラール』
ピシャアアン―!
ネイリーの体に稲妻が落とされた。なんと霧の向こうに現れたのは己の姿! しかも抱擁し合っている上に自分は親友のことを可愛らしいとほざいている! わなわなと震え、ネイリーはその場に両膝をついた。
血迷ったのか自分、まさか長年の親友と抱擁なんて。しかも手の甲にキス、だと?
そりゃ自分は美しい男であるからして、親友と抱擁しキスする姿はまさしく睦まじい光景、絵になる光景であろうけれども。絵になってはいけないのだ。絵になっては。
だってジェラールと自分は同性なのだ。絵になる、それはイコール…。
『おっとジェラール、君はこんなところをうろついてはいけないよ。君のお腹には四人目の愛の結晶が宿っているのだから』
『ま、ネイリーったらん。心・配・性ねん』
ちょ、待て待て待て子供だと?
同性である自分達に子供、だと? しかも四人目の愛の結晶ほんじゃらかほい? じゃあ残り三人子供がいるということであるからして。
「ネイリー、あんた」まさかジェラールに手を出していたのか。何事も頑張れば子供ができるものなのか。呆れながらも風花はやや納得したように吸血鬼に声を掛ける。
「僕は無実だァアア!」ネイリーは大変なショックを受け、その場で身悶えていた。
ハンカチを取り出し、キィーッと噛み締めて号泣する吸血鬼は大混乱。いやそりゃだって腐っても自分達は男同士であるからして、子など身ごもる筈が無いというか何というか、まず子供を作る以前の問題であるからして。
自分自身に喝を入れたい。何故にジェラールに手を出している。向こうにいる自分。子供などどうやって作ったよ、向こうにいる自分。
シクシクシクと大粒の涙を零してショックを受けているネイリーに、風花は慌てて「きっとあれは幻だよ」だと声を掛ける。いや掛けようとした。
しかしその前に霧の向こうから誰かが現れた。それは二ヶ月前、聖界に帰ってしまった少年。幻でも嬉しい。喜びに顔を歪めた直後、その歪みは怒りの歪みへと変わった。
何故ならば少年の隣に見知らぬ女天使が立っていたのだ。
自分と同じ銀髪を持っている天使なのだから、また癪に障るのですが。
ローブ姿の少年は孤独感を漂わせ、軽く目を伏せていた。そんな少年に天使は後ろから優しく抱擁する。
ピキっと風花のこめかみに青筋が立つ。
『菜月さま。わたしくしと一緒に逃げましょう。聖界にいたら、貴方は殺されてしまいます。そんなの、わたくし、堪えられません!』
『逃げられないよ。人間界にいた頃からそう。逃げられなかった。俺はずっと聖界に縛られていくんだ。死ぬその時まで』
『……。また悪魔を想っていらっしゃる。その人は此処にはいないのですよ。今貴方が悲しんでいても、慰めることもできないのに。わたくしなら、貴方の心身どちらとも癒せるのに』
心身どちらとも癒せる、だぁ?
風花の青筋は大変な事になっていた。
あの天使(アマァ)、純情ぶって人の彼氏に手を出そうとしてるんじゃないよってぁあああああ! 風花は絶叫した。女天使が少年のローブを固定している紐ベルトに手を掛けていたのだ。驚く少年に対し、女天使は女神のような笑顔を見せていた。
『愛してあげます』
「ヌァアアアアア!」風花は髪を乱し、その場に両膝を付いた。
やっぱり天使は純情ぶっているようでエッロイ生き物だったのだ!
よく言うではないか。真面目な奴ほどヤラシイ奴だって。天使って清純そうで結構ヤラシー欲があったのだ。嗚呼チックショウ! 少年の彼女の前でそんなやり取りするなんて、そんなやり取りするなんて!
…ッハ、こうしてはいられない。二人を止めなければ! ウェルカムアダルティーワールド阻止しなければ! 幻だって許すものか!
風花はチクショウと連呼しながら態勢を立て直し、力任せに大鎌を振った。
大鎌から無差別に飛ぶかまいたちはその場の幻を掻き消してしまう。無差別に飛ばしたため、危うくネイリーまで餌食になるところだったが間一髪のところで彼は避けていた。
ゼェゼェと息をつき、風花は大鎌の柄を力任せに握り締めた。
「上等じゃないか、ミステリーデスゾーン! あーんなムカつく幻見せちゃってさ! この北風の悪魔に喧嘩売っちゃうなんてさ!
ぜぇえったい此処から抜け出してやるもんねー! ああいう風にダーリンといちゃつくのはあたしだって決まってるもんねー!」
高らかに笑う風花に対し、「子供って…」ネイリーはまだ号泣していた。よほど幻ショックが大きかったと思われる。
影から様子を見ていたカゲぽんは思った。
こいつ等、駄目だこりゃ!
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