[携帯モード] [URL送信]
09-15



 ズン―。
 
 影にクマの体が沈み始めた。もがけばもがくほど影に沈むクマの体。光景に驚きつつも、二人はクマの頭を踏み越し、抉れた地面の上を飛び移って待望のミステリーデスゾーン入り口に辿り着く。
 振り返ってクマの様子を窺う。クマの体は半分ほど影に沈んでいた。それ以上沈まないのか、動きは止まっているが影から抜け出せないようだ。クマは右に左に体を捩り暴れている。

 風花は肩に乗っている小鬼に凄いじゃないか、とカゲぽん褒めちぎった。


「あんた、あんなことができるんだねぇ。見直した!」


 エッヘン。カゲぽんは胸を張ってふんぞり返る。


『カゲぽんは凄いんだじぇ。だけど…、ちょっと疲れたんだじぇ。スプーンじゃ本当の力は出ないし、カゲぽん、いつもカゲっぴと協力して術を使うから…』

「ウム。それに子供だしな。あれほどの術であれば、魔力の消費も大きいだろう。しかし本当に助かった。ダンケ・シェーン」

 
 褒められ、感謝され、カゲぽんはエッヘンとまた一つ威張りながらも照れ笑いを浮かべていた。純粋に役に立てて嬉しかったのだろう。
 「影鬼は幻術に長けているからな」これから先、またカゲぽんの力を借りる時が来るかも知れない。いや来るだろう。幻術はきっと役に立つ。無論カゲぽんだって子供ながら役立つ。
 
 ネイリーは改めてカゲぽんに礼を告げると、気を引き締めて暗闇が広がっている洞窟へと目を向けた。
 
 一見ただの洞窟。

 しかしこの先からひしひしと感じる、異様な魔力。何種類もの魔力が入り乱れている。己の中の警鐘が鳴り響いている。おかげで肌が粟立っていた。一度入ると抜け出せることはできない迷宮。人間界に戻ることもあれば、魔聖界の何処かに出ることもある。彷徨い続けることだってある、危険な空間。
 敢えて危険を冒して空間に入った先、聖界が出迎えてくれることを、そして友に会えることを心から祈っている。
 
 「フロイライン」ネイリーが悪魔を呼べば、風花は小さく頷きポケットに仕舞っていたエグサクトコンパスを取り出す。
 
 聖界の土が混ぜられた魔石が埋め込んであるコンパスは一筋の光を放った。まるで導くように発光する白い光は奥へと続いている。
 風花は一旦エグサクトコンパスをネイリーに手渡すと、自分は人間の姿から悪魔へと元の姿に戻る。普段着から漆黒のローブへ。青々としていた瞳は赤々とギラついた色へ。決意に満ちたギラついた瞳には強い意思が宿っていた。
 背には悪魔の象徴であるコウモリを模ったような翼が生えた。
 
 此処から先、人間の姿では突き進めないだろう。いつだってフルに力の出せる悪魔の姿でなければ。
 
 死神の大鎌を召喚する風花に倣い、ネイリーも布手袋を装着し、紅薔薇サーベルを召喚する。宙を切って気持ちに喝を入れた。
 風花は四苦八苦しながら(風花は魔法が苦手なのだ)、ライト代わりの光の玉を召喚すると自分達の真上に投げた。これで視界は確保した。顔を見合わせ、頷き、二人は足を進める。
 

 ここから先、迷宮が続いている。
 

 永久に彷徨うかもしれない。だからこそ気を引き締めていかなければ。永久に迷う? そんな気はさらさらないのだ。
 自分達は聖界に向かわなければならない。愛すべき者達に会うために。無謀だと分かっているからこそ、ミステリーデスゾーンに足を踏み込む。ミステリーデスゾーンという地に足を踏み込むことが無謀なら、魔界人でありながら聖界に行く自分達はどうだ?


 ―…大馬鹿だ。


 大馬鹿だからこそミステリーデスゾーンを抜け出さなければ。大口を叩いたくせに永久に迷うなんてとんだお笑い種だ。
  



[*前へ][次へ#]

15/31ページ

[戻る]


あきゅろす。
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!