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09-14



 しかし此処は慌てず、騒がず、である。
 
 風花は自分の鞄から縄を取り出すと真上に放り投げ、カゲぽんに手渡した。
 それを丈夫な気に括りつけて欲しい。的確に指示すると、『分かったんだじぇ!』カゲぽんは縄を持って駆けた。
 こうして難なく落とし穴から脱出できたわけなのだが、また歩みを再開すると落とし穴に嵌ってしまった。それが三、四度、繰り返される内に一行は落とし穴というトラップに嫌気が差してきた。

 これではミステリーデスゾーンに辿り着く前に、また日が暮れてしまう。夜を此処で明かさなければいけない。そんなのご免である。
 
 どうにか落とし穴に落ちない策はないか。
 うんぬん考えに考え、風花は閃いたと手を叩いた。
 

「穴があるかどうか確認すりゃいいんだろ。んじゃ、こうすりゃいいんだ」
 
「ウム? 何をする気―…」
 
 
 ドゴォオ―!
 
 躊躇い無く風花が地面に向かって拳を入れた。手加減されていない拳は地面にめり込み、四方八方に地割れ。地面が大きく抉れた。
 なるほど、地面の抉れ具合で落とし穴があるかどうか、確かに判断できる。地面が抉れれば落とし穴だって顔を出すだろうし、抉れた土の上を歩けば、落とし穴に落ちることは無い。が、これを考え出した風花に感服と驚愕と畏怖の念を抱かざる得ない。
 ちょっとやそっとじゃ地面がここまで大きく抉れないのだから。

 虚ろな目を作って失笑を漏らしているネイリーは冷汗を流しながら思った。馬鹿力を持つフロイラインのパンチを受けている自分の身、よく持ってるなぁ…と。


 ガサ―ッ、突然茂みが揺れた。

 
 ネイリーが視線を向ければ、茂みの向こうに大きな大きなクマ。 
 ミステリーデスゾーンの魔力の影響を受けているクマは、それはそれは図体が大きかった。
 少し前に追い駆け回されたクマよりも図体がでかく、目分量ではあるが全長700cmはある。ホッキョクグマでさえ最大全長300cmほどだというのに、なんと大きなクマなのだろうか。
 
 玉のような汗を流しながらネイリーは風花に声を掛ける。
 「どうしたわけ?」地面から拳を抜き、振り返ってくる銀色の悪魔もクマの姿に絶句。カゲぽんは風花の肩によじ登ってガタブル震えている始末。
 
  
「色と姿形からしてヒグマかなぁ。あれは、まったく大きいものだ。あんなに涎を垂らして…、なにやらご馳走でも見つけたようだな」

「ははっ、多分あたし達がご馳走なんだろうなぁ」

「……。それはクマッたな。僕等はミステリーデスゾーンに行かなければいけないのに」

「……。あんた、さっきからクッダラナイ親父ギャグが多いって。ブーム?」

「何事も状況には明るさと笑いが必要だと思わないかね? そう、今まさに笑いが必要ッ、おっと来た!」
 

 猪突猛進するクマに背を向け、二人は抉れた地面の上を器用に飛び移りながらミステリーデスゾーンへ続く洞穴へと向かう。
 「しっかり掴まってろよ!」風花は肩に乗っているカゲぽんに声を掛ける。今度は絶対離れてはいけない。離れそうになったら影に逃げるんだ。風花の言葉にカゲぽんはうんうん頷くが、後ろを一瞥した途端ギョッと目を削いだ。クマがすぐそこまで来ていたのだ。馬鹿でかいわりに足が速いようだ。
 
 クマは地面を蹴って跳躍、前方に回ってきた。
 なんて脚力だ。これでは足を止めなざる得ない。仕方が無しに二人は足を止め、別の逃げ道を探す。が、その前にカゲぽんが止めるなと声音を張り、クマに向かって武器代用品のスプーンを振った。
  
 
『影鬼秘術・影沼!』
 

 スプーンから瞬く間に白い閃光が放たれ、クマの影が大きく広がる。




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