09-13
ずっと曇天の下を歩いていた二人にとって見つけたその場所は心安らぐものだった。
「綺麗だねぇ」「極楽のようだな」綻ぶ二人が花畑に歩み寄る。すぐに足が止まってしまった。花畑で休憩を、なんて二人は思っていたのだが、花畑には先客がいたのだ。
「これまたビックサイズ…だねぇ」
「ウム。此処の植物を食べるとあそこまで成長できるものなのだろうか」
片頬を痙攣させながら二人は花畑を見つめる。
綺麗な花畑に身を隠すように、数匹の巨大なてんとう虫が蠢いていた。バスケットボール程の大きさをしている。可愛い? とんでもない。巨大な昆虫に動揺とおぞましさの両方を抱く現況です。
ふと影ができる。二人は空を仰いだ。そしてギョッと目を削ぐ。
巨大な蝶が群をなして雄大な空を飛び回っていたのだ。「きもい!」青褪めながら風花は群に悲鳴を上げ、「蝶だけに超ビックな群」ネイリーは何を思ったのか今の感想をダジャレで表現していた。
『あくじょー、吸血鬼ぃー、向こうから魔力感じるんだじぇ』
ネイリーの影にいたカゲぽんが頭だけ顔を出し、湖向こうを指差した。
小さな指先の向こうには洞穴らしきもの。あれは洞窟。
ハッとネイリーは懐に手を突っ込み、手帳を取り出して洞窟と紙面を交互に見比べている。
そして満面の笑顔を作ると、隣にいた風花の体を前触れもなしに持ち上げその場で回った。突然のことに風花は度肝を抜いたが、目を爛々と輝かせるネイリーは風花を下ろすとその体を抱き締め、両肩に手を置いた。
「フロイライン。あれだよ、あれ! あれがミステリーデスゾーンの入り口さ!」
「え…、じゃ、じゃあ。あたし達、見つけたわけ?」
「そうさ! 僕等はミステリーデスゾーンを見つけたんだ! 昆虫の巨大化の謎もミステリーデスゾーンから放出される魔力が原因だったと言えば説明も付く。僕等は見事に聖界への入り口とも言うべき道を見つけたのだよ!」
気持ちを高揚させるネイリーに呆気に取られていた風花だったが、見る見る笑顔を作り、「ネイリー!」今度は風花の方から吸血鬼に飛びついた。『カゲぽんも〜』喜び合う二人の輪に混ぜてくれと小鬼が主張。当然二人はカゲぽんを入れて三人で喜びを分かち合った。
まだまだ旅は序の口だが、ミステリーデスゾーンを見つけるだけでも一苦労だった。これまでの長旅を思い返せば当然嬉々が胸を占めるに決まっている。今は素直に喜びを噛み締めたい。
早速洞窟に向かおう。
三人は足並み揃えて洞窟へと足を運ぶ。微風に揺れる花畑を横切り、ぐるっと巨大な湖を回る足取りは羽根のように軽い。今なら花畑にいる巨大なてんとう虫も、空を自由に舞う蝶も、先程遭遇した芋虫も可愛らしく見える。それだけ気持ちにも余裕が出たということだ。
しかし浮ついた気持ちをずっと抱いているわけにもいかない。
ミステリーデスゾーンは他のデスゾーンと比較して謎に満ちている。文字通り謎で満ちているため、何が起こるか分からないのだ。例えば洞窟に入った瞬間、雷に打たれるとか。ミステリーデスゾーンに入ったぬらりひょんは洞窟に入ろうとしたら、突然地面がズボ―ッ。
「へ?」「お?」地面の感触に風花とネイリーは目を削ぐ。
次の瞬間、重力に向かって体が落ちた。
土埃を舞わせて落ちた正体、それは落とし穴だった。誰がどう作ったかは知らないが、二人は見事に罠に嵌ったのだ。カゲぽんは体重が軽かったため落とし穴に落ちることは無かったが、体重の重い風花とネイリーは落とし穴の餌食になってしまったのである。
なんでこんなところに落とし穴が。顔を顰める風花の下でネイリーは重いと呻いていた。
どうやらネイリーを下敷きしていたらしい。風花はごめんごめんと詫びを口にし天を仰いだ。落とし穴はそれなりに深いようだ。出口の光がやや遠い。土の壁も脆く、これは素手のみでよじ登るには困難だろう。
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